サッカーの戦術は常に進化を続けています。その中で、近年特に注目されているのが「偽(にせ)」と呼ばれる戦術シリーズです。これは、特定のポジションの選手が従来の役割からあえて逸脱し、相手守備を混乱させたり、中盤で数的優位を作り出すための戦術的工夫を指します。
代表例としては「偽9番」「偽サイドバック」「偽センターバック」「偽サイドハーフ」「偽10番」などがあります。本記事では、それぞれの特徴と狙い、活用例を整理し、指導や育成の観点からも掘り下げていきます。
目次
1. 主な「偽」シリーズ戦術と特徴
戦術名 | 内容・目的 | 代表例 |
---|---|---|
偽9番 | 本来CFの選手が中盤に下がり、相手CBを引き出してスペースを作る。中盤の数的優位も狙う。 | メッシ(バルセロナ) |
偽サイドバック | SBが内側に絞って中盤に入り、ビルドアップや数的優位を形成する。 | アラバ(バイエルン)、横浜F・マリノス |
偽センターバック | CBが中盤に上がり、ボランチのように振る舞うことで中盤の厚みを増す。 | ジョン・ストーンズ(マンC) |
偽サイドハーフ | SHが中に絞ってプレーし、中盤のボックス形成や2トップ化を図る。 | ロッベン、リベリー(バイエルン) |
偽10番 | トップ下の選手がサイドに流れたり、自由に動いて攻撃の起点となる。 | ファブレガス(スペイン代表) |
2. 共通する狙い
これらの「偽」戦術には、いくつかの共通した狙いがあります。
- 中盤での数的優位の創出
- 中盤の枚数を増やし、相手を数的不利な状況に追い込む。
- 相手守備のマーク混乱
- 想定していない位置に選手が現れることでマークが崩れる。
- スペースの創出と活用
- 誰かが内側に入れば外が空き、その逆も成り立つ。
- ポジション可変による柔軟性
- 試合中に形を変えることで、相手に対応の時間を与えない。
3. 偽サイドハーフの詳細解説
「偽」シリーズの中でも比較的新しい概念が「偽サイドハーフ」です。これは、サイドハーフ(SH)が本来のサイドの役割から離れ、中央寄りにポジショニングする動きです。
目的は他の「偽」戦術と同様、相手守備を混乱させ、中盤で数的優位を作ることにあります。
具体的な活用例
チーム/選手名 | 動き | 狙い・効果 |
---|---|---|
バイエルン(ペップ時代) | リベリーやロッベンが内側に絞り、SBが大外を取る | 中央での数的優位、ウイングの1vs1作り出し |
高校サッカー(青森山田) | SHが中に入りIHのように振る舞う | 中央の厚み増加、サイドにSBを走らせる |
スペイン代表(2010年代) | イニエスタが左SHとしてプレーしながら中に絞る | ポゼッション安定、中央での創造性発揮 |
川崎フロンターレ | 家長昭博が右SHから中に入りゲームメイク | ボール保持と崩しの起点を中央に集約 |
4. 偽サイドハーフの主な狙い
- 中盤の数的優位:相手中盤に対し、3対2や4対3の状況を作る。
- ポジションの可変性:相手のマークを迷わせ、守備の基準点を崩す。
- サイドスペースの活用:空いた大外をSBやWGが使いやすくなる。
- 中央での崩し:SHがIH化することで短距離のコンビネーションが可能に。
5. 指導・育成の視点
「偽」戦術を選手に理解させる際は、単にポジション移動を教えるだけでは不十分です。大切なのは**「なぜそこに移動するのか」「その結果誰が外を取るのか」「数的優位がどこに生まれるのか」**という因果関係を理解させることです。
指導ポイント
- 目的の共有:形を作ることが目的化しないようにする。
- 相手を見る習慣:相手のポジション変化に応じて動きを選択できるようにする。
- 連動の意識:自分の動きが味方や相手にどう影響するかを理解させる。
まとめ
「偽」シリーズは、現代サッカーのポジションプレーを象徴する戦術群です。従来の役割を一時的に放棄し、相手守備の予測を外すことで数的優位とスペースを生み出します。
指導現場では、この動きの背景にある意図や目的を明確にし、選手が自ら判断して活用できるように育成することが重要です。
単なる奇抜な動きではなく、チーム全体の構造と連動する高度な戦術として、「偽」シリーズは今後も進化を続けるでしょう。
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