サッカー選手の個性を語る上で、私たちはしばしば「ポリバレント」と「スペシャリスト」という二つの言葉を耳にします。「あの選手は複数のポジションをこなせるポリバレントな存在だ」「彼は決定的な仕事をする真のスペシャリストだ」。これらは、選手の特性を理解するための、非常に重要なキーワードと言えるでしょう。
一方は、多彩な役割を高いレベルでこなし、チームに戦術的な柔軟性をもたらすカメレオンのような存在。もう一方は、特定の分野で他を圧倒する絶対的な武器を持ち、勝敗を決定づける切り札となる存在。一見すると、この二つの才能は対照的なものに映るかもしれません。
しかし、現代サッカーの複雑な戦術の中で、彼らはそれぞれどのような価値を持ち、チームに何をもたらしているのでしょうか。そして、この二つの才能は、果たして対立するものなのでしょうか、それとも互いに補完し合うものなのでしょうか。本稿では、この二つの選手タイプを深く掘り下げ、現代サッカーにおける彼らの役割と重要性について考察していきます。
「ポリバレント」――戦術に無限の可能性を与えるカメレオン
「ポリバレント」とは、単に「複数のポジションをこなせる便利な選手」という言葉で片付けられる存在ではありません。それは、高いレベルの技術、フィジカル、そして何よりも卓越した戦術理解力を兼ね備えた、現代サッカーにおいて極めて価値の高い才能です。
1-1. チームにもたらす価値①:戦術的柔軟性
ポリバレントな選手がチームにもたらす最大の価値は、その「戦術的柔軟性」にあります。例えば、試合の途中で監督がフォーメーションを変更したいと考えた時、通常であれば選手交代が必要になります。しかし、チームにポリバレントな選手がいれば、交代カードを切ることなく、ピッチ上の選手の配置を変えるだけでスムーズにシステム変更に対応できます。相手の戦術に合わせてSBからCBへ、あるいはボランチからSHへと役割を変えることで、試合の主導権を握りやすくなるのです。
かつてサッカー日本代表を率いたイビチャ・オシム監督は、このポリバレントという概念を非常に重視しました。彼が目指した「考えて走るサッカー」において、選手たちが状況に応じて複数の役割を担うことは不可欠な要素でした。オシム監督にとって、ポリバレントな選手は単なる穴埋め役ではなく、変幻自在なサッカーを実現するための「戦術の核」となる存在だったのです。
1-2. チームにもたらす価値②:組織の安定性
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