1.カメレオン型フットボールとは
前回もオリジナルシステムで戦うという内容の記事を出させていただいた通り、人と同じ戦術で戦うことを好まない傾向にあります(笑)
今回のテーマはカメレオン型フットボール。
「カメレオン型」とは、言わずと知れた“環境に応じて体の色を変えるカメレオン”に由来しています。サッカーにおいても、自チームの選手構成や対戦相手の特徴や状況(相手のシステムや戦力)に応じてシステムや戦い方を大きく変化させるという戦術的アプローチを指します。
私自身が指揮していたチームでも、試合のたびに「在籍している選手」や「そのとき出場可能な選手」に合わせてDFラインを例にすると、3バック、4バック、場合によっては5バックなど、複数のオプションを使い分けていました。また、試合中にも相手が変化を加えてきたタイミングや流れが変わったシーンで、システムや配置をコロコロと変えていくことも多かったのです。
1-1.プレーモデル型との対比
「チームとして同じプレーモデルを共有し、それを一貫して積み上げる」スタイルが注目されています。例えば、スペインやドイツのクラブチームが示すように、ポゼッションを主軸とした攻撃モデルを徹底的にトレーニングし、それを選手たちへ浸透させるアプローチです。
一方で、カメレオン型フットボールは、その真逆とまではいかないにせよ、「試合ごと、さらに試合の中でも柔軟に変化し続ける」ことをOKとしています。
2.日本代表を例に
まずは2つの引用を紹介させていただきます。
日本は現状W杯では守備ベースを基本としているが、年々選手のレベルが上がっており、攻撃ベースにシフトする時がくるかもしれない。代表の長友佑都は攻撃面での改善が必要だと声を挙げており、すでにその時が来たかもしれない。
その際、ドイツやスペインのスタイルを目指してはならない。なぜなら日本にも相手の堅守を真正面から打ち破れるストライカーがいないからだ。三笘薫のストライカー版が今後誕生するかもしれないが、低い可能性には賭けられない。
目指すべきは現状結果を残しているカメレオン型だろう。攻撃も守備もハイレベルに、その場に応じてどちらに重点を置くべきか、試合の中で判断する。フランスがそうで、トップレベルの堅守に、トップレベルの攻撃を持つ。
まさに“カメレオン戦術”だ。これまで3バックをベースに練習を重ね、5月30日のガーナ戦(0-2)も3-4-2-1のシステムでスタートした日本代表だが、4日の午後練習では西野ジャパン始動後、初めて主力組が4バックを採用した。
西野朗監督は選手に対し、ガーナ戦で3バックを採用した理由について「オプションとして持っておくことが大事。試合の中で臨機応変に戦うために3バックでやった」と説明したという。「4-5-1は慣れ親しんだ形だから違和感なくできるだろう」と、この日の練習ではバヒド・ハリルホジッチ前監督時代にも採用され、アルベルト・ザッケローニ元監督時代にはベースとなっていた4-2-3-1のフォーメーションを組んだ。
4-2-3-1の左サイドハーフで起用されたMF宇佐美貴史(デュッセルドルフ)は3-4-2-1では左シャドーが定位置だったが、「これまで(3-4-2-1で)積み上げてきた中で4-5-1をやると、やりやすさを感じることもある。4-5-1に関して戸惑いはない」とスムーズに適応した。
日本代表の例
引用文の中にもあるように、日本代表ではここ数年で「3バック」と「4バック」を状況に応じて使い分ける試みが行われました。特に西野朗監督時代のロシアW杯前には、3-4-2-1での戦い方をオプションとして取り入れつつ、従来の4-2-3-1にもすぐ戻せるように準備していたというエピソードが知られています。監督やコーチの「臨機応変に戦うためのオプション」という考え方は、まさにカメレオン型の発想とも言えます。
攻撃ベースと守備ベースの両立
日本代表がW杯で結果を出すために、「まずは堅守をベースに」と考えるのは自然な流れですが、年々選手のレベルが上がり、攻撃的にも多くのタレントが台頭してきた今、守備と攻撃の両立こそが求められていると言われています。引用でも指摘されているように、ドイツやスペインの“攻撃偏重”なスタイルを丸ごと真似るのではなく、フランスのように必要に応じて攻守の比重をシフトできるカメレオン型を目指すのが理想ではないか、という見解もあります。
カメレオン型のメリット
相手の弱点を突きやすい
固定的なシステムだと、自分たちの強みを生かす一方で、相手が対策を立てやすい面もあります。ところが、カメレオン型は試合中でも相手の狙いや弱点を見極めて素早く布陣を変えられるため、相手が後手を踏む可能性が高くなります。
3-2.選手の個性を最大限活かせる
チームの中には、守備に秀でた選手もいれば、攻撃的なセンスが光る選手もいます。あるいは両足を自在に使える選手がいれば、サイドでプレーしたがる選手もいる。カメレオン型なら、その試合の登録選手やコンディションに合わせて最適解を選ぶことが可能です。
3-3.試合の流れを読みやすくなる
カメレオン型を導入していた時期、常に「次にどう変化すれば優位に立てるか」を考えていました。これは指導者だけでなく、選手も同様ではないかと思います。試合中に何か問題が生じたとき、「この配置ならどうだろう」「ここを2トップに変えてみたら?」など、指導者・選手共に考える力が身につくケースが多かったと感じています。
4.カメレオン型の注意点・デメリット
4-1.明確なプレーモデルの欠如による混乱
柔軟さは大きな武器ですが、その分、「チームとして何をベースにしているのか」が見えづらくなるリスクもあります。プレーモデルがある程度確立しているチームでは、選手が迷うことなく共通のイメージでプレーできるでしょう。しかし、カメレオン型のチームでは、変化に対応できない選手や、状況判断が苦手な選手にとって負担が大きい可能性があります。
4-2.準備不足によるギャンブル性
カメレオン型を実践するには、試合前から複数のシステムをトレーニングで試しておく必要があります。あるいは、試合中に即席で切り替える場合も、ベースとなる原理原則を共有していないと、結局“形だけ変わったが連携がチグハグ”という状態に陥るリスクが高まります。
つまり、柔軟さを維持しつつも、きちんと練習で複数のオプションを仕込む労力が求められるわけです。これは指導者にとって知識や経験を求められる領域でもあります。
5.トレーニングへの応用
5-1.コアなテクニカル要素は大きく変わらない
「カメレオン型」のチームだからといって、日々のトレーニング内容がまったく変わるわけではありません。たとえばパス&コントロール、ビルドアップの基礎、守備時のアプローチやカバーリングなど、サッカーにおけるコアな技術や原理原則は共通しています。どのシステムであろうと、選手の個のスキルが高くなければ戦術は機能しません。
5-2.相手や状況に応じた原理原則
カメレオン型を“本物”の強みにするためには、「自分たちがなぜシステムを変えているのか」「どの状況でどんな原則を踏まえるべきなのか」を、選手と共有しておく必要があります。
たとえば、3バックにしたらウイングバックがどのような役割を果たすのか、2トップに変更したら中盤はどう連動するのか、といった基本パターンをオーガナイズされた練習で体験しておくことも重要です。
こうした練習での積み上げがあるからこそ、ゲーム中にスムーズにシステムを切り替えられるわけです。
6.私が目指す「相手に応じた原理原則のサッカー」
過去にカメレオン型フットボールを実践していたとき、私自身が強く感じたのは「単なる場当たり的な変更ではなく、あらかじめいくつかの原則を持っておくことが大切」ということでした。相手の弱点を探しながら、自分たちの武器を生かす。その際に中心となるのは、やはり原理原則=サッカーの本質です。
これらの要素は、どのシステムを採用していても変わりません。そしてチーム作りでは「この原理原則を守りながら、システムを柔軟に変化させられる」という状態が理想だと感じています。
7.まとめ:カメレオン型フットボールの可能性
カメレオン型フットボールは、相手や状況に応じて戦術を柔軟に変化させるスタイルであり、近年のサッカー界でも注目される一手のひとつです。そのメリットとしては、相手の弱点を突きやすいこと、選手の個性を最大限に活かせること、試合中の主体的な判断力を育めることなどが挙げられます。一方で、明確なプレーモデルがないと混乱を招く可能性や、複数のシステムを仕込むための準備・理解が必要になるなどのデメリットも存在します。
それでも私がこのカメレオン型に魅力を感じるのは、やはり“変化に強い”ところにあります。どんなに優れた選手がそろっていても、必ずしも毎試合同じメンバーを組めるわけではありません。コンディション、怪我、相手の対策――あらゆる要素が絡み合うサッカーの世界では、“常に同じやり方”だけでは乗り切れない瞬間が来るものです。そこに柔軟性をもたらすのが、カメレオン型フットボールだと言えるでしょう。
最後に、カメレオン型の重要要素は「原理原則と準備」です。どんなシステムに変えても通用する共通の戦術リテラシーや、複数システムへの適応を想定したトレーニングがあってこそ、一見“コロコロ変わる”ように見えてもブレないチームが出来上がります。皆さんも是非「試合中に変化のあるサッカー」を試してみてはいかがでしょうか?
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