本記事では、チームが成果を最大化するためのポイントとして、「心理的安全性」と「当事者意識」に焦点を当てながら、合意形成や競争原理、コンフォートゾーンの活用、そしてトップダウンとボトムアップのバランスなどについて解説していきます。
1. 心理的安全性がもたらすもの
「チームのなかで本当に何でも言い合える雰囲気はあるか?」と問われたとき、即答できるチームは多くないかもしれません。とりわけ、新しく加入したメンバーや普段あまり発言しない選手にとっては、意見を言うこと自体が大きなハードルになりがちです。発言の内容が「無知だと思われないか」「批判的だと捉えられないか」などの不安を抱えていると、人はどうしても意見を出すことに消極的になります。
しかし、心理的安全性が担保された場では、これらの不安が軽減され、一人ひとりが自分の思いやアイデアを素直に口にしやすくなります。その結果、普段は意見をあまり言わない選手からも素晴らしい発想や改善策が生まれることがあるのです。実際、練習メニューの効率化や、試合時の連携向上につながる案が飛び出し、チーム全体のパフォーマンスを高めるケースも少なくありません。
心理的安全性を高めるためのヒント
心理的安全性を育むには、まず「発言しても否定されない」「当事者を尊重する」という共通認識をチーム全員で持つことが大切です。そのためには、定期的なミーティングの場を設けて「率直に意見を言ってほしい」というリーダーのメッセージを伝えるだけでなく、実際に意見が出た際には批判から入らず、まずは受容する姿勢を示す必要があります。さらに、参加者全員が意見を出しやすいように、最初は1対1の場で雑談を交えながらアイデアを引き出していくことも効果的です。
そこで生まれた意見が有益そうであれば、本人が共有できるよう促したり、代弁してあげたりすることで、徐々に「発言すること」へのハードルを下げていきましょう。
2. 合意形成がもたらすパフォーマンス向上
チームが目指す目標に対して、「本当に自分は納得しているのか?」という問いかけも重要です。トップダウンで出された指示に疑問を感じると、当事者意識が薄くなり、行動の質が下がってしまうことがあります。これでは結果にも影響が及んでしまい、チーム全体のパフォーマンスが低下してしまうかもしれません。
たとえば、試合での戦術変更や新たなポジション変更など、監督からの提案に対して選手が腹落ちできていないと、自発的なモチベーションは高まりにくくなります。合意形成をしっかりと行い、納得したうえで100%の力を発揮できる状態をつくることが、結果的にチームの強化につながるのです。
スムーズな合意形成のために
提案を行った後は、「疑問はないか」「ここがわからないと感じているのではないか」といった確認を入れることが大切です。大勢の前では言いにくい選手がいる場合は、後から個別にフォローしてみると、チームのなかに埋もれていた不安や考えが見えてくるでしょう。合意を得るプロセスを丁寧に踏むだけでも、チームとしての結束力は大きく高まります。
3. 競争原理のなかで自分を成長させる
競争が激しい環境ほど2軍のレベルが高く、結果的に1軍も競争によって鍛えられます。強豪校やクラブでは、レギュラーとサブ、さらには新人選手との切磋琢磨が常に起きています。その一方で、結果主義に偏りすぎてしまうと息苦しさを感じるメンバーが出てきたり、逆に平等を重視しすぎると競争の意識がなくなってしまったりと、環境づくりは非常に難しいところです。
大切なのは、「目標を獲得するために行動するのはあくまで自分である」ということを、一人ひとりが自覚することではないでしょうか。いくら周囲が厳しく指導しても、結局、その目標に向けて本気で努力を重ねるかどうかは本人次第です。外からの刺激がきっかけになる場合はあっても、セルフコントロールをして日々の練習に集中できるのは、“自分の意志”だけなのです。
競争と成長のバランスをとるために
もし、「今のまま1年過ごしたら自分はどんな状態になっているか? その姿に100%満足できるか?」という問いを自分に投げかけてみると、自然とコンフォートゾーン(現状の快適さ)から抜け出すアイデアが浮かんでくるはずです。
競争のなかでも、自分が心から獲得したいゴールを明確にし、そこへ向かう行動を具体化することで、ストレスを感じすぎずに前進しやすくなります。
4. コンフォートゾーンを“未来”に移す
人間は本能的に現状維持を好むため、いくら高い目標を掲げても、潜在意識では「無理をしたくない」と感じる瞬間があるものです。ところが、仮に「5時間後に沖縄へ到着すれば10億円がもらえる」という条件が提示されたら、多くの人は何とか手段をひねり出して行動に移すでしょう。これこそ、ゴールの魅力(欲求の高さ)によって、コンフォートゾーンが“未来に移動”した瞬間と言えます。
未来のコンフォートゾーンをセットするコツ
自分が本当に欲しいゴールを描くためには、まず「自分はいったい何を得たいのか」「どんな姿を目指しているのか」を正直に見つめ直す必要があります。そこにリアリティを伴った期日や数値目標を設定し、「このままではいけない」「どうにかして達成したい」と思える状態をつくっていく。大切なのは、“理想”のイメージを常に意識し、日常の練習や仕事のなかで小さくてもいいから前進を感じられるようにすることです。
5. GOAL設定は“置いたまま”にしない
高いゴールを設定しても、ただ設定しただけで満足してしまったり、気づけばそのゴールが頭のなかから消えていたりするケースは少なくありません。「最初の決意はどうなったんだろう?」と思い返すころには、すでに目標がフェードアウトしていることもあります。
そうした事態を防ぐためには、ゴールをこまめに「見える化」して振り返る仕組みが欠かせません。たとえば、スマホの待ち受け画面に理想のイメージを貼っておく、チーム内でホワイトボードに進捗を共有する、1週間ごとに振り返りミーティングを行うなど、方法はいくらでも考えられます。重要なのは、“ゴールを忘れないようにする工夫”を習慣化し、常に行動をアップデートし続けることです。
6. トップダウンとボトムアップのハイブリッド
チームビルディングの方法論として、トップダウンによる指示型の組織運営と、ボトムアップによるメンバーの主体性を尊重する組織運営が対比されることがあります。トップダウンには「方針が浸透しやすい」というメリットが、ボトムアップには「多様なアイデアが出やすい」というメリットがある一方、それぞれにデメリットも潜んでいます。
実際のところ、チームのフェーズや達成したい目的によって、トップダウンとボトムアップの“ハイブリッド”が効果的になることが多いでしょう。新戦術を短期間で浸透させたいときはトップダウンの力が有効かもしれませんし、選手個々のクリエイティブなアイデアが必要なときは、ボトムアップの雰囲気が必要になります。
トップダウンを円滑に進めるためのポイント
監督やコーチがトップダウンで指示を出す場合も、合意形成を丁寧に行うことは変わりません。納得できていない要求に対しては、選手のパフォーマンスが下がるリスクがあるからです。チーム全員の前で「質問や不安はないか」を確認し、それでも言いにくい人がいれば個別で話を聞くなどのフォローが欠かせません。
ボトムアップを機能させるためのポイント
一方、ボトムアップを促すときは、選手たちが自由に意見を言える雰囲気を醸成することが最優先になります。提案を受容し、称賛するだけでなく、「次の練習や試合でさっそく試してみよう」と行動につなげることで、“自分の意見がチームに反映される”という感覚を得やすくなります。これが当事者意識を強め、さらなる発言やアイデアを引き出す好循環を生むのです。
7. 当事者意識を高めるために
チームスポーツでは、レギュラーやスタメンで目立つ選手ばかりが“主役”に見えがちです。しかし、本来チームのなかでの“主役”とは、与えられた役割を自分ごととして全うしようとする選手すべてに当てはまります。たとえ試合で目立たないポジションにいたとしても、積極的に行動し、成し遂げたいゴールに向かって自分の力を注いでいる選手は、間違いなくチームの“主役”と言えるでしょう。
自分の役割を“主役”として捉える
自分の役割が何かを明確にし、その重要性を理解すると、当事者意識がぐっと高まります。たとえば、守備的なポジションを任されているなら、「自分の存在が相手の攻撃を絶つことでチームの勝利につながる」と認識することで、日々の練習にも一段と熱がこもるはずです。そうした思考をベースに、「次のステップに行くために、何をすればもっと貢献できるか?」と考えると、自然と具体的な行動プランが浮かんできます。
8. まとめ:チームを創るのは“当事者意識”を持ったあなただと意味付けをする
チームビルディングにおいて、心理的安全性が高まればメンバー同士が活発にコミュニケーションを行い、そこから多様なアイデアや改善策が生まれます。同時に、トップダウンとボトムアップを使い分けながら合意形成を進めることで、全員が100%の力を発揮しやすい環境をつくることが可能です。
さらに、競争原理を適度に活用しつつ、ゴールをただ「置きっぱなし」にしないように工夫すれば、いつでも自分の役割を“主役”として捉えて行動できます。個々人がコンフォートゾーンを未来に移し、心から達成したい目標に向かう姿勢を維持できれば、チーム全体のパフォーマンスは着実に向上していくでしょう。
最後に、改めて選手たちに問くフレーズを伝えておきます。「あなたはチームにおいて、どんな役割を担う主役でいたいでしょうか?」そして、「そのために、まずどんな行動を起こしますか?」――自分が当事者であると強く意識するほど、発言も行動も変わり、チームの未来が大きく拓けていくはずです。心理的安全性のもとで生まれる自由な意見交換と、自分ごととして取り組む当事者意識こそが、最大の成果を生み出す原動力となるはずです。
コメント