サッカー選手に求められる資質が年々変化していると感じます。いくら上手くても、チーム全体の連携を乱してしまう選手や、指導者や仲間とのコミュニケーションに難がある選手は起用されづらくなってきています。一方で、自分の能力を最大限に活かしながら、チームの一員として役割を全うし、周囲をサポートできる選手は、たとえ派手さはなくともチームに欠かせない存在として重宝されます。
つまり、「上手いだけ」ではなく、人としての魅力や総合力、いわゆる“ソーシャルスキル”を含めた資質がますます重要視されているのです。ここからは、具体的に現代サッカーで重視されるポイントを4つに分けて解説していきます。
1. ゲームに対する深い理解
現代サッカーでは、攻撃と守備の原則に対する深い理解が求められます。試合の流れや相手チームの戦術を読み取り、そのうえで的確に判断を下す力が欠かせません。そのためには、当然ながら基本的なサッカースキル(パス、コントロール、ドリブル、シュートなど)の質が高いことが前提となります。
戦術・システムを理解する重要性
私が強く思うのは、選手は戦術やシステムについてジュニア世代から学んでおくべきだということです。最近はユース世代などで戦術を専門的に教えるクラブやスクールも増えていますが、まだまだ「プレーしながら自然に学んでいく」風潮が根強く残っています。しかし、戦術理解が深い選手は、チームがとるフォーメーションや攻守の切り替え、数的優位の作り方などを理論的に把握しているため、試合中の判断が圧倒的に的確かつ素早いです。
また、個人技だけでなく、味方との連携やスペースの使い方を把握していれば、対峙する相手のプレスに対しても臨機応変に対応できます。このように、サッカーを理論的に理解し、試合の状況に応じて柔軟にプレーを変化させられることが、現代サッカーの舞台で活躍するための必須条件となっています。
2. On the PitchとOff the Pitchでのモデルとなる振る舞い
次に重要になるのが、ピッチ上(On the Pitch)だけでなく、ピッチ外(Off the Pitch)でも模範となるような振る舞いができるかどうかです。どんなにスキルがあっても、チームの士気を下げる発言を繰り返したりする選手は、長い目で見て信頼を得ることは難しいでしょう。
On the Pitchでのリーダーシップ
On the Pitchでは、リーダーシップやコミュニケーション能力、そしてモチベーション管理が欠かせません。試合は常に想定外の出来事が起こるため、劣勢な状況でもどれだけ冷静に対応できるかがポイントになります。その際、ベテラン選手だけがリーダーシップを発揮すればいいわけではありません。若い選手であっても、大事な場面でしっかり声を出し、味方を鼓舞できる人材は非常に貴重です。
また、チームメイトと情報を共有し合いながらプレーする姿勢も重要です。パスやマークの受け渡しなど意思疎通・コミュニケーションがしっかりと図れていないと、どれだけ技術があっても組織的な相手に負けてしまうリスクが高くなります。優秀な選手とは、味方との連携をスムーズに行い、ゴールへと橋渡しができる「チームプレーヤー」であり続けることでもあります。
Off the Pitchでの振る舞い
ピッチ外の行動によっても大きく左右されることを忘れてはいけません。Jリーグのようなトップリーグであればメディアへの対応、SNSの使い方、ファンサービスなど、ひとつひとつの振る舞いが注目されやすい傾向にあります。そうした中で、節度をわきまえ、自分の言動や身だしなみに責任を持つことは不可欠です。もちろん、カテゴリーが下がったとしても同様です。
さらに、自己管理能力も含め、栄養や休養、怪我予防を徹底することはプロサッカー選手の基本中の基本です。自己管理を怠れば、せっかく伸びかけていた能力を怪我で棒に振るリスクが高まります。日本人サッカー選手の中でも、海外リーグで成功している選手は総じてこの自己管理が非常に徹底している傾向があります。コンディション管理が成績に直結するといっても過言ではありません。ピッチ外で、どれだけ自分を律して自己管理ができるか…この点が最も問われていますね。
3. 狭い時間・スペースでの優れた判断力
現代サッカーの特徴の一つとして、トランジションが非常に速く、時間やスペースに余裕がないことが挙げられます。ハイプレスが一般的になり、狭いエリアで数的優位をつくられたり、すぐに複数の選手からチェックを受けたりする場面が増えました。こうした中でも、いかに冷静かつ的確に判断を下せるかが重要であると言えるでしょう。
周囲を観る習慣
判断力を高めるカギの一つが、「周囲を常に観る」という習慣です。ボールが自分の足元に来る前から周囲の状況を把握していれば、次のプレーをイメージしやすくなります。ここが疎かになると、狭いスペースでのプレーは途端に難しくなるでしょう。トップレベルの選手は、常に首を振り、相手選手や味方の位置、ボールの流れ等を把握しています。
正確なテクニックとメンタルの落ち着き
もちろん、狭いスペースでの判断力を支えるのは、正確なテクニックとメンタル面の強さです。周囲のプレッシャーを受けながらも、トラップやパスが乱れない基礎技術と動じないメンタルがあると、たとえ厳しい状況でも打開できる可能性が高まります。
このように、技術だけでなく心の強さも含めて「優れた判断力」と呼べる段階までトレーニングを積まないと、現代サッカーでは活躍が難しいのです。こうした判断力を高める努力を怠ってしまうと、フィジカル面はいつか低下していくためプロ最前線が活躍し続けることは非常に難しいと考えています。
4.ソーシャルスキルが選手寿命を左右する?
ここまで、サッカー選手に求められる具体的なスキルや資質について述べてきましたが、最終的には「ソーシャルスキル」が大きくものを言うケースが多いと考えています。それを象徴するのが、以下の公式です。
【スキル】=「サッカースキル」×「ソーシャルスキル」
サッカースキルがどれだけ高くても、ソーシャルスキルが著しく低いと選手としての価値は大幅に下がってしまいます。特にプロとしての道を歩むのであれば、チーム内外でのコミュニケーション、スタッフやサポーターへの敬意など多岐にわたって上手に対応できる能力が必要です。
チームの中での立ち位置を自分で作る
ソーシャルスキルが高い選手は、自然と周囲からの信頼を得やすく、チーム内での立ち位置を作りやすいというメリットがあります。例えば、試合に出られない時期があっても、腐ることなくトレーニングに励んだり、後輩の面倒を見たりする姿勢は、指導者からもプラスに評価されやすいでしょう。そうした人間性は、長期的に見れば監督やコーチの信頼、支持にも繋がると考えています。
まとめ
現代サッカーにおいて求められる選手像を総括すると、以下のように整理することができます。
- ゲームに対する深い理解
- 攻守の原則をしっかり理解し、戦術的にも柔軟に対応できる知識と頭脳を持つ。
- On the PitchとOff the Pitchでのモデルとなる振る舞い
- ピッチ上ではリーダーシップやコミュニケーション能力を発揮し、ピッチ外では自己管理やマナーを徹底する姿勢が求められる。
- 狭い時間・スペースでの優れた判断力
- 相手のハイプレス下でも冷静にプレーを選択できるメンタルと正確な基礎技術が重要。
- ソーシャルスキルの重要性
- 人として“いい奴”と思われるような人間性やコミュニケーション力が、最終的に選手としての評価にも大きく影響する。
サッカーはチームスポーツです。だからこそ、個人だけが目立とうとする選手や、自分勝手なプレーを続ける選手は長期的に活躍することが難しく監督も起用し辛くなっていきます。時代の流れとともにサッカーのスタイルや要求される能力は変化し続けていますが、本質的には「チームに貢献できるかどうか、人間として周囲から信頼される存在になれるか」という点が不変の評価基準として残っているのです。
つまり、【いい奴】ですね。
現代サッカーにおける“本当のいい奴”は、サッカーのピッチ上で自分の役割を理解して全うし、仲間との関わり方や自己管理もハイレベルでこなせる選手であり、そのうえで人として愛される存在です。
ぜひ「サッカースキル」と「ソーシャルスキル」を掛け合わせた総合力に目を向けてみてください。自分の存在価値を単に“技術の高さ”だけで捉えるのではなく、周囲との関係性や学ぶ姿勢、試合外での行動にも意識を広げていくことで、サッカー選手としても人としても成長できると信じていますし、我々はそんな選手を育てたいと考えています。
コメント