はじめに
ヴィッセル神戸といえば、2023年にクラブ史上初のJ1リーグ優勝を成し遂げたことで一気に脚光を浴び、続く2024年シーズンでもリーグ連覇と天皇杯優勝を飾り「二冠」を達成した、いまや日本屈指の強豪クラブへと成長を遂げた存在です。
その原動力となったのが、吉田孝行監督が掲げる「ハイプレス&ロングフィード」を軸としたダイナミックなサッカー。そして選手一人ひとりの高い献身性や豊富な運動量が生み出す、90分間ハードワークし続ける“神戸らしさでした。
迎えた2025年シーズンは「リーグ3連覇」と「ACL制覇」というさらに高い目標が視野に入っている一方で、開幕から苦戦を強いられる場面も散見されます。本稿では、まず2024年の戦い方を振り返り、その分析を踏まえたうえで2025年シーズンにおけるチームの動向や期待を独自の視点から考察してみたいと思います。
2024年シーズンの総括
戦術とフォーメーション
2024年のヴィッセル神戸は、攻撃時には4-1-2-3の布陣をベースに、守備時には前線のプレス要員が後退して4-4-2のブロックを形成する“可変システム”を採用しました。これを支えたのは、相手に合わせて戦術を変えず“自分たちのスタイル”を貫くという吉田監督の一貫した方針です。
- 攻撃時: 後方でじっくり繋ぐのではなく、チャンスと見ればすぐにロングフィードを前線に供給。大迫勇也や武藤嘉紀といった個の力が高い攻撃陣がボールを収め、セカンドボールを味方が連動して回収し、短時間でゴールへ直結させる流れを徹底しました。
- 守備時: 前線から強烈にプレスをかけ、CFとトップ下が並んで相手のCBとGKに圧力をかけてビルドアップを封じる。自陣深くまで押し込まれた局面では、ウイングがしっかり戻って4-4のブロックを作り、サイドバックが釣り出されたスペースをボランチやウイングでカバーする。
最終ラインを高く保つリスクももちろんありますが、そこはCBやGKの俊足とリスク管理で補い、相手陣内で主導権を握り、高い位置でボールを奪って一気に攻めきるという戦術が見事に機能していました。
攻撃面の特徴:速攻と空中戦が威力
神戸が2024年にリーグ戦で61得点と得点力を発揮した大きな要因が、“速攻”と“空中戦”を組み合わせた多彩な攻撃パターンです。
- 速攻: 高い位置でボールを奪うと、すぐにロングボールやドリブルで前線へ運び、数的優位を生かして一気にゴールまで持ち込む。相手がビルドアップに苦しむだけでなく、ゴール前での守備再編が間に合わないうちにシュートへ繋げるのが特徴でした。
- 空中戦(セットプレー含む): リーグ戦61得点の約4割にあたる24得点がセットプレーから生まれ、さらにクロスからの得点も10点と多め。190cm近い長身CBのマテウス・トゥーレルや山川哲史がターゲット役となり、セットプレー時には“高さ”で圧倒するシーンも目立ちます。トゥーレルの空中戦勝率の高さはリーグ屈指で、守備だけでなく攻撃面でも頼もしい存在でした。
もちろん大迫や武藤といった攻撃の核となるFW勢は、ポストプレーや裏への抜け出し、あるいはドリブル突破などで個々に局面を打開できる力を備えており、相手にとっては分かっていても止められない攻撃が神戸の強みとなっていました。
守備面の特徴:全員参加のハイプレスと組織的ブロック
守備においては、前線からのハイプレスをチーム全員が連動して実行する姿が印象的でした。
- 相手DFラインに対して、CFとトップ下が強烈なプレッシャーをかけ、ウイングもサイドから追い込む形。ボランチの2枚、さらにはCBラインまでがコンパクトに押し上げることで、実質4-2-4のような攻撃的守備を敷きます。
- 相手が中央突破を狙えば、中盤や最終ラインのCBが前に潰しに出て対応し、ロングボールを蹴らせたらCBが跳ね返す。結果、リーグ最多の奪取回数を記録し、被シュート数も抑えられたことで、最終的な失点は36(38試合で1試合平均0.8点)というリーグ最少タイの堅守を実現しました。
唯一の懸念は高い最終ラインの裏を突かれるリスクですが、そこもCBとGKの連携とカバーリングで大崩れすることなく抑え込んでおり、失点が多くなった試合は少なかったのが実情です。
リーグ戦・カップ戦の成績
- J1リーグ: 勝点72(21勝9分8敗)で2位の広島に勝点4差をつけて優勝。2023年の初優勝に続く史上6クラブ目の連覇を成し遂げました。61得点・36失点は共にリーグ上位の数字で、攻守のバランスが取れた強さを示しています。
- 天皇杯: 決勝でガンバ大阪を下し、6試合全勝・得失点11-1という圧倒的な内容で優勝。リーグと合わせて“二冠”の偉業を達成しました。
- ルヴァンカップ: ACL出場の影響でプライムステージ(決勝トーナメント)から参戦も、1回戦でカターレ富山にPK戦の末に敗退。リーグ・天皇杯・ACL重視の方針を明確にし、若手主体で臨んだ結果だったといえます。
こうして見ると、2024年シーズンのヴィッセル神戸は“ハードワークで相手を圧倒する守備”と“空中戦・カウンターを軸とする攻撃”という明確なスタイルで国内2冠に輝きました。特に、吉田孝行監督が掲げる「競争と共存」のもと、スター選手と若手・控え組の間に健全な競争が成立している点は大きな強みと言えるでしょう。
2025年シーズンの情勢とチーム動向
フォーメーションと戦い方の継続
2025年シーズンも、神戸の基本フォーメーションは4-3-3。一昨年から継続する形を踏襲しつつ、守備時にはインサイドハーフの一人が前線に並び4-4-2化する可変システムが維持されています。吉田監督自身が「チームコンセプトは変えない」と明言しており、依然として「縦に速いサッカー」と“高いインテンシティ」を追求。
- 前線の守備強度を常に高く保ち、ボールを奪われそうな局面でもすぐに集団でプレスに転じる。
- 攻撃の崩し方は相手ごとに微調整しつつ、ロングフィードやサイド攻撃も多用してスピード感あふれる攻撃を展開。
チームとしての共通認識が深まっているため、やり方にブレはなく、選手たちも「自分の役割」をしっかり理解して動いているのが今季序盤からも見て取れます。
攻撃陣の個の力と連動性
最大の武器はやはりエース大迫勇也と武藤嘉紀を中心とした個の力×連動です。
- 大迫の存在感: ロングボールを収めるポストプレーだけでなく、献身的に守備をこなし、ゴール前では変わらぬ決定力を見せる。彼がプレーに絡むほど周囲も活性化し、武藤や汰木康也らが裏への抜け出しやカットインでゴールを狙うシーンが増えます。
- 新戦力&若手の台頭: たとえば左インサイドハーフに入る宮代大聖は、前線のマークが大迫に集中するうちに二列目からドリブルや飛び出しでゴールに絡むスタイルがハマり、昨季11得点を挙げるなど急成長。さらに右ウイングのバックアッパーだった飯野七聖(いいの・ななと)などもスピードを武器に活躍し、中盤・前線を競争で引き締めています。
守備の強度とリスク管理
守備では2025年シーズンも前線からのハイプレスが継続。寄せの強度を徹底し、「逆サイドを捨てるほどボールサイドに集中する」ことで相手を窒息させるサッカーを継続しています。
一方で、連戦による疲労や相手の研究も進んでおり、プレスの強度が落ちた際のリスク管理が課題に挙がります。高い最終ラインの裏を狙われると、CBやGKのカバー力が試されるため、特にACLや過密日程になるほど守備崩壊の危険性が高まる可能性があります。
とはいえ、昨季同様キャプテン山川とトゥーレルを軸とする最終ラインは粘り強く、両SBにも酒井高徳や初瀬亮など経験豊富な選手が揃っており、簡単には崩れにくいというのが現状です。守備をサボる選手がいない点も神戸の強さを支えています。
序盤の成績と今後の展望
リーグ戦序盤の苦戦
2025年シーズン開幕後は、やや苦戦を強いられているとの報道があります。開幕から3分け1敗となり、アビスパ福岡に0-1で敗れて初黒星を喫した時点で未勝利状態に陥りました。
- 原因としては、ACLとの並行に伴う過密日程で主力を大幅に温存した試合があったこと。
- ハイプレスを支える運動量や連係が、シーズン序盤のコンディション不足で徹底しきれない場面が見られること。
しかしながら「シーズンはまだ始まったばかり」で、ACL日程が落ち着いてくれば再び主力中心の布陣で勝ち点を積み重ねる期待が十分あるでしょう。上位進出を狙う他クラブとの争いは激しいですが、神戸には二年連続優勝の実績があり、いわゆる“勝負強さ”を発揮する可能性は高いとみられます。
カップ戦・ACLでの注力
- 天皇杯: 前年王者として大会連覇を目指すシーズン。2回戦(6月)からの登場予定で、今季もターンオーバーを活かしながらタイトル防衛を狙います。
- ルヴァンカップ: 2024年はまさかのPK敗退を喫しており、今季はもう少し勝ち進むことが期待されます。
- ACL: 2024-25シーズンのACLに出場し、グループステージを突破済み。ラウンド16ではホームで2-0のリードを奪っており、ベスト8進出に期待がかかるところ。アジア制覇は「悲願」と言われており、吉田監督も「リーグ3連覇」と並ぶ最重要目標として掲げています。
このように神戸はリーグ、ACL、そして国内カップ戦と多数の大会を並行して戦うため、選手層の活用が大きなテーマになります。昨季までもターンオーバーの巧拙が勝敗を分ける場面がありましたが、結果的にはリーグ戦と天皇杯を両立して成果を出しました。2025年はさらにACLが絡むことで日程は過酷さを増しますが、選手全員が戦力化しやすい雰囲気を持つチームだけに、うまくローテーションを回せるかがポイントになりそうです。
2025年シーズンに寄せる期待
昨季までの連覇で国内では揺るぎない地位を確立したかに見えるヴィッセル神戸。しかし2025年シーズン序盤の苦戦は、「神戸のサッカーが通じない」と見るか、「あくまで序盤のコンディションとACL日程の重荷で伸び悩んでいるだけ」と捉えるかで意見が分かれます。
確かなのは、神戸にはハードワークできる選手が揃っており、吉田孝行監督を中心としたチームの一体感がまだまだ健在であること。そしてエース大迫や武藤を筆頭とする攻撃陣の個の力、セットプレー時の高さを生かした得点パターン、ハイプレスで相手を封じる守備など、今年も“常勝軍団”としての要素は揃っています。
- リーグ3連覇への道: 序盤で出遅れたとはいえ、中盤以降に巻き返して上位進出し、最終的に優勝争いに絡むポテンシャルは十分。
- ACLでの飛躍: 過去最高はベスト4。ACL制覇という悲願へ、グループステージ突破を果たし、ラウンド16でも優位に立つ現状は期待の持てる材料。
- ターンオーバーの徹底と若手の成長: 過密日程を乗り切るためには、昨年以上に選手層の底上げがカギとなる。序盤での停滞を乗り越えれば、さらに層が厚くなったチームとして後半戦に弾みがつくかもしれない。
いずれにせよ、2025年シーズンのヴィッセル神戸は、連覇を達成した栄光の過去に安住せず、さらなる高みを目指す大きなチャレンジの年です。国内3連覇か、それともACL制覇か――。それらを同時に狙うだけの力は十分に備えているだけに、今後の巻き返しとタイトルレースでの最終的な勝負強さが大きな見どころとなるでしょう。
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