サッカーにおいて、数的優位をどのように作り出すかはゲームを優位に進めるために常に考えるべきテーマです。その中でも、今回取り上げたいのは「ズレ」という視点。「ズレを作る」と言いますが、それはなぜ有効なのか、どのような方法で「ズレ」を作り、2対1や3対2といった優位な局面を意図的に作り出すのかを掘り下げていきたいと思います。
なぜ「ズレ」を作るのか
1. サッカーにおける数的優位の本質
数的優位とは、単純に言えば「あるエリアや局面で味方の選手数が相手より多い」状態を指します。攻撃面では、数的優位が生まれるとパスコースが増え、ドリブルを仕掛けるスペースを確保でき、相手が守りにくい状況がうまれます。また守備側からすれば、同数・数的不利の状況で対応し続けるのは負担が大きく、穴が生じやすいです。
言い換えれば、数的優位を作られた側は常に“リアクション”に回らざるを得ないため、守備が後手に回ってしまうのです。
「ズレ」を作るとは何か?
1. ズレの定義
「ズレを作る」というフレーズは、筆者のチームにおいては**“数的優位を意図的に作る”**という意味で使っています。シンプルに言えば、2対2の状況を2対1にしてしまう、4対4の状況を5対4に変える、といった具合です。
2. 相手の“迷い”を生む
相手守備がフラットに4枚(4-4-2の4バック)や4枚中盤(4-4-2の中盤ライン)などと揃っている場合、選手が1対1で対峙していると相手は迷わずに応対できます。これがいわゆるミラーゲームです。“ズレを作る”とは、そのミラー状態を崩し、相手に「誰が誰をマークする?」「どこをカバーする?」と一瞬の迷いを生じさせる行為です。
たとえば、自チームのボランチがサイドに流れて数的優位を作るなど、相手MFやDFのマークをズラすことで生まれるスペース・タイミングが狙いです。これを組織的にできれば、相手は常にマークの受け渡しやポジショニングを強いられ、その間に自チームが前進できるわけです。
4-4-2同士のミラーゲームを前提とした「ズレ」の作り方
ここからは実際に4-4-2同士の対戦を例に、「ズレ」の作り方をさらに具体的に解説していきます。あくまで一例なので、チームや選手特性によってバリエーションを増やしたりシンプル化したりしてみてください。
このようにマッチアップの状況から意図的にポジションを変えて「+1」の状況を作ったり、相手が2枚なら3枚に、4枚なら5枚に、というようにマッチアップの状況を崩していくことを「ズレ」を作ると言います。
1. サイドの選手を追加して2対1を作る
最もシンプルな方法が、サイドで2対1を作ることです。
例えば、
- 相手のSBと自分のウイング(またはサイドハーフ)が1対1の状態。
- ボランチ(あるいはサポート役の選手)がサイドに流れ込み、2対1になる。
こうすることで相手SBは2人のプレーヤーを同時に見るのが難しくなり、どちらかをフリーにしがち。仮に相手中盤がカバーに来ると、今度は中央が空くという連鎖が起こります。
2. FWが少し降りて3人目をフリーにする
4-4-2同士だと、相手DF4枚 vs 自チームFW2枚+中盤1枚(トップ下)という形がよく見られます。ここで2トップのうち1人が中盤まで降りてきて、相手ボランチやCBを引き出すと、相手DFラインにズレが生じる可能性が高いです
4. 「ズレを作る」ために必要な準備
いくらズレを作ろうと思っても、選手の理解と練習が伴わなければ実践で再現できません。以下、実践面で考慮すべきポイントを整理します。
1. 言語化と共有
選手全員が「ズレとは何か?」「どういう動きで数的優位を生むのか?」を理解していないと、“なんとなく”動いただけでズレが生まれないという結果に。具体的なポジションチェンジ(可変)や2対1の作り方を繰り返し説明します。
2. オフザボールの意識
ズレを作るためには、ボールを持っていない選手が非常に重要です。いわゆるオフザボールの質が、数的優位を成功させる大きな鍵。
- マークを外す動き
- 3人目の動き
- 「偽」の役割を担う配置取り
これらがかみ合うと、チームとしてズレを作る動きが自然に連動するようになります。
シンプルな概念がチームを変える――“ズレを作る”を共通言語に
「ズレを作る」という考え方は一見当たり前のようにも思えますが、意外と実戦でできていないチームが多いものです。マークされた状態でパスを回しているだけだと、相手も迷わず守れますし、攻撃の流れは停滞しがちです。ここで意図的にポジションを変えたり、2対1の局面をデザインできれば、相手守備を揺さぶる武器を手に入れることができます。
- ちょっとポジションをずらすだけで2対1が生まれる
- サイドに1人追加するだけでSB vs 2人になり、相手のカバーが追いつかない
- FWが降りてくるとCB or ボランチが釣られ、その裏が空く
こうしたシンプルなアイデアをチーム全体で共有し、「ズレを作る」ことを習慣化すると、攻撃のバリエーションが増え、相手に読まれにくいサッカーが展開できるようになります。
最終的には、選手たちが**「いつ」「どこで」「誰が」ズレを作るのか**を判断できるようになるのが理想です。そのためのトレーニングや試合での経験を積み重ね、チーム全体で「ズレ」という言葉を共通言語にして、各局面でのリスクや狙いを話し合う。この積み上げが、プレー精度とチーム力の向上につながると思います。
まとめ
「ズレを作る」とは、相手とのマッチアップ状態を崩し、数的優位(2対1、3対2など)を狙っていく考え方です。4-4-2同士のミラーゲームでありがちな「1対1の対応」を意図的に壊し、“2対1を作る”などの小さな優位を積み重ねることで、攻撃をスムーズに前進させられる可能性が高まります。
とくに、
- サイドで2対1を作る
- FWやトップ下が一時的にポジションを変えて相手を引き出す
こうした工夫をチーム全体で共有し、言語化した上で練習に取り入れると、試合で再現性のある“ズレ”が起こりやすくなります。また、「ズレ」を発動するタイミングや役割を明確化すれば、無駄に突っ込んでボールを失うリスクや、マークの受け渡しを失敗する恐れも減っていくでしょう。
最終的に大切なのは、選手たちがピッチ上で自主的に「ズレを作る動き」を選択できるようになること
ぜひ皆さんのチームでも、この「ズレを作る」というシンプルかつ強力なアイデアを取り入れてみてください。参考になれば幸いです。
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