はじめに
スポーツで突出した成果を挙げるアスリートを語るとき、「才能があるから」という説明がしばしばなされます。しかし、いわゆる“劣悪な環境”で育ちながら、世界トップレベルに到達する選手が数多く存在しているのも事実です。なぜそのようなことが起こり得るのでしょうか。
一般的に、スポーツのパフォーマンス向上に影響を与える主な要素として、「才能(遺伝的要因)」「環境(設備・練習機会・仲間や両親のサポートなど)」「指導者(コーチの質・アドバイスを受ける機会)」の3つが挙げられます。これらの要素が複雑に絡み合い、バランスと相互作用を生み出すことで、アスリートの成長や成功に導かれるのです。
第2章:才能(遺伝的要因)の意義と限界
まず、「才能」とは何でしょうか。先天的な身体能力(筋線維のタイプや身長・骨格、心肺機能など)や、運動神経・空間認知能力などがしばしば「才能」と呼ばれます。
メッシは幼少期からボールタッチの柔らかさが際立っていたことで有名で、20代で世界トップクラスへと駆け上がったのは誰もが知るところです。
しかし、才能があるからといって、必ずしもトップレベルまで到達できるわけではありません。遺伝的素質を持っていても、適切な練習機会が不足したり、精神的なモチベーションを維持できなかったりすると、才能が花開かないまま終わってしまう可能性は高いのです。
心理学者エリクソンは「熟達(エキスパート)」を生み出すには、長期的かつ集中的な“意図的な練習”が不可欠だと指摘しています。つまり、「才能」とはあくまでもスタートラインの一つに過ぎず、それを最大限に伸ばすためには、多様な要因が作用し合う必要があるのです。
*補足 エリクソンについて
アンダース・エリクソンは、人が卓越した技能を身につける過程を研究し、その中心概念として「意図的練習」を提唱しました意図的練習とは、特定のスキルや分野で優れた成果を出すために、単なる反復ではなく明確な目的を持って計画的に行う練習法です。この方法は心理学者であるエリクソンによって提唱され、多くの分野のトップ専門家が実践していることが知られています
意図的練習の主な特徴には次のような点があります:
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