サッカー指導者がチーム作りを進めていく際、最初に立ち返るべき問いが「自分は一体どんなサッカーをしたいのか?」「どういうチーム像を目指すのか?」という点にあります。しかし、その「やりたいこと」や「サッカー観」を自分の中だけで漠然と抱いているだけでは、選手たちに正しく伝わらず、日頃の練習や試合で迷走してしまうケースが多々見られます。
そこで本記事では、自分がやりたいサッカーを明確に言語化することがいかに重要か、そしてチームに落とし込むためにどのようなプロセスが必要かを深掘りします。
1点補足です。もちろん選手に合わせて、試合に合わせて戦い方を変えることは非常に重要だと思っています。しかしながら指導者一人一人が「自分のサッカー観」を明確にし、言語化しておくことは需要です。なぜなら軸がなければ派生はしない。木の幹がなければ枝はないからです。
「サッカー観を言語化する」とは何か?
「自分がやりたいサッカー」とは、指導者の頭の中にあるサッカー観にほかなりません。例えば、
- ボールを保持するサッカー
- 堅守速攻を狙うサッカー
- フィジカルや高さを活かすサッカー
- 全員攻撃・全員守備
どのようなスタイルを選ぶにせよ、そこには必ず「こうあるべき」という考えが潜んでいます。それを「美学」と呼んでも良いですし、「フィロソフィー」「コンセプト」と表現しても構いません。大事なのは、その“頭の中の抽象的イメージ”を言葉としてはっきり定義することで、自分自身と周囲(選手、スタッフ)の間にあるギャップを小さくすることなのです。
ギャップがあるままでは、わがまま・エゴと捉えられかねません
なぜ言語化が重要なのか?:指導現場の現実
指導現場では、意外なほど指導者のサッカー観が明確に伝わっていないケースが少なくありません。例えば、
- 「とにかく繋げ」と指示するが、選手たちは「なぜ繋ぐのか、どういう形で繋ぐのか?」を理解していない
- 「前線からプレスをかけろ」と言うが、どのタイミングで、どの選手がどう動くかは曖昧
- いざ試合になるとロングボール主体に切り替えたりして、選手が混乱
こうした混乱を招く背景には、指導者が自分のサッカー観を言葉で整理していないことや、選手へ明示的に伝えていないことが挙げられます。
言語化がもたらすメリット
選手との認識共有
言語化がなされると、選手は「自分たちがどういうサッカーを目指していて、なぜこの練習をしているのか」を理解しやすくなります。結果、練習の意図を汲み取り、自発的に考える選手が増える傾向にあります。
トレーニングの組み立てが明確に
自分が「どんなサッカーを理想とするか」を言葉で表していると、日々のトレーニング内容も自然とそこへ繋がるものになります。例えば、ポゼッションを軸に考えているなら、ビルドアップやポゼッション、前進等のメニューが中心になるでしょう。「チームの育成」と「試合での勝利」に向けた具体的なタスクが明確になるわけです。
チームの一貫性とブレの防止
シーズン中に結果が出ない試合が続くと、どうしても監督・コーチはスタイルを変えたくなる誘惑に駆られます。ですが、最初に言語化された“サッカー観”があれば、方向性を極端に変える前に立ち止まって考えられます。これは、長期的にチームを成長させるうえで非常に重要な“軸”となります。
サッカー観の言語化ステップ
では、具体的にどうすれば自分のサッカー観を言語化しやすいのでしょうか?ここでは、いくつかのステップを提案します。
自分の“美学”を振り返る
まずは、自分(チーム)がどんなサッカーを目指すかを言葉にしてみましょう。好きなチームや監督の例を取り上げても構いません。過去に観戦して感銘を受けた試合、あるいは自分が現役時代に経験したスタイルなどから突き詰めます。
大目標・中目標・小目標の設定
- 大目標(戦術的レベル):たとえば「ポゼッション率60%を維持しながら、年間失点数を○○点に抑えるサッカーをする」
- 中目標(戦術的レベル):後方からのビルドアップ手順や、奪った後の攻撃パターンなど、具体的なテーマを設定
- 小目標(トレーニングレベル):1ヶ月後にはチーム全員がビルドアップ時のポジション取りを明確にする、などの具体性
共通言語
選手に伝わりやすいキャッチーなキーワードを準備しておくと良いでしょう。「繋げ」「落ち着け」「幅を取れ」といった単語だけではなく、共通言語があると良いでしょう。抽象的・具体的でも構いません。そこをさらに説明することで、より理解を深められます。
チームへの落とし込み
トレーニングメニューへの反映
言語化したサッカー観をベースに、**「この練習は何のために行うのか?」**を明らかにします。選手が「コーンを使ったドリル」をやる際も、「何を学習しようとしているのか」「試合でどのように活かすのか」が伝われば、集中力と練習の質が向上します。
試合中のコーチングと伝え方
試合中に指示を出す際も、あらかじめ言葉で定義した概念やフレーズ=【共通言語】を使い続けることで、選手の頭に浸透しやすいです。新たに思いついた指示を突然投げかけると戸惑う選手が出るので、共通言語を繰り返すのが効果的。
フィードバックと修正サイクル
試合後のミーティングでは、「自分たちが目指すサッカー観と、実際の試合内容とのギャップは何だったか」を検証します。そこを踏まえてトレーニングを微修正する。これを繰り返すことで、チームは言語化された【サッカー】に近づいていくのです。
言語化こそ指導者の力の源
サッカーの世界には様々なスタイルや戦術があり、その根底には指導者やクラブが持つ「美学」や「サッカー観」があります。強豪クラブが一貫したスタイルを築けるのも、結局は自分たちがやりたいサッカーを明確に定義(言語化)しているからではないでしょうか。
- 言語化がチームをまとめる:
選手に対して「何を、なぜ、どうするのか」が明確に伝わるため、練習や試合で迷いが減る。 - 言語化が戦術を進化させる:
試合後の分析やフィードバックで、「自分たちのサッカー観」とのギャップを常に埋める作業ができる。 - 言語化がサポーターや周囲を巻き込む:
あなたが目指すサッカー観が共有されれば、サポーターや保護者、学校関係者もチームを理解・応援しやすくなる。
大切なのは、自分の中だけで完結するのではなく、言語として周囲に発信することです。抽象的な“頭の中の考え”は言語化されることでチームの“ビジョン”に変わり、具体的な戦術や練習計画に“逆算”されることで実行可能なものになるのです。
終わりに
指導者として、自分が「どのようなサッカーを追求するのか」というビジョンを持つことは、チームの舵取りにおいて決定的に重要です。それがどんなスタイルであっても、はっきりと言語化し、そこから逆算して練習や試合のプランを構築することで、選手たちは迷いなく自分たちの目指す道を歩めます。
結局のところ、サッカーは十人十色。ボールを繋ぐのが好きな指導者もいれば、ロングボールやフィジカルを活かす方が性に合う方もいるでしょう。どちらが優れているかは一概に言えません。ただ、一度「私はこういうサッカーをしたい」と文字や言葉で定義してみれば、より明確な意図を持って日々のトレーニングを行えますし、選手にもチームにも**“自分たちがなぜそのスタイルを選んだのか”**が伝わります。
あなたのチームはどんなコンセプトを掲げ、どんなサッカーを展開したいのでしょうか。いま一度、自分の頭の中を整理し、“サッカー観” を言葉にしてみてください。きっとそこにこそ、監督・コーチとしての力量を発揮する大きな可能性が秘められているのではないでしょうか。
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