はじめに
トレーニングの構築は指導者にとって日々試行錯誤の連続です。テーマ設定やオーガナイズ、強度の調整など、考慮すべき要素は多岐にわたります。私自身、さまざまなカテゴリーや選手層のチームを指導する中で、「いかに効率的かつ意図を持ったトレーニングを組み立てるか」という点に常に頭を悩ませてきました。
アラートなトレーニング
集中力を保つための環境づくり
サッカーのトレーニングは、ただ闇雲に練習時間を長く取れば良いというものではありません。選手が「アラートな状態」、つまり集中力を高く維持したまま取り組める環境を整えることが大切です。具体的には以下のような点を意識しています。
- 適切な時間の設定
長すぎるセッションは集中力を削ぎますし、短すぎるとテーマの反復が足りず効果が見込めません。年齢やフィジカルレベルを考慮し、1セッションあたりの時間を決めます。 - 強度と内容のバランス
高い負荷のトレーニングを連続して行うと疲労が蓄積し、精度や集中力が低下します。逆に強度が低すぎると選手が退屈してしまい、意欲を失うことも。緩急をつけて集中を保ちつつ、プレーの質を高めるよう心がけています。 - 目的が伝わる声かけ
トレーニング前や途中で、コーチとして「何を意識してほしいのか」を明確に伝えることで、選手の意識レベルを高めることができます。例えば「今の狙いは攻守の切り替え」「ここから先はオフザボールの動きに注目してほしい」といった形で、短く具体的に指示をすると集中力の維持につながります。(敢えて言わないもあり)
反復の数を増やす
「テーマに沿ったオーガナイズ」で迷子にならない
多くの指導者が悩むのが、「トレーニングのテーマを決めたものの、実際に練習を始めるとどんどん脱線してしまう…」というケースです。これを防ぐためには、オーガナイズをしっかり設定し、選手が迷わず反復できる状況を作り出すことが大切です。
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- テーマを明確にする
たとえば「ビルドアップ時のサポートを強化したい」「前線への崩し方を磨きたい」など、狙いがハッキリしていればトレーニングのオーガナイズもスムーズに組めます。 - 必要な人数とエリア設定
テーマに合わない人数構成やコートサイズだと、練習中に意図しない動きばかりが出てきてしまい、本来の目的を達成しづらくなります。狙いを持ったサイズ設定をしましょう。(しかしながら良い環境でトレーニングしている選手たちの方がはるかに少ないのは事実) - 反復しやすい仕組み作り
「攻守が切り替わってもすぐに次のプレーを始められる」「ミスが起きてもすぐにリスタートできる」など、意識的に反復回数を増やすレイアウトを意識します。これは選手のモチベーション維持にも大きく影響します。
ブレをなくすことで積み上げが可能に
ランダムに指摘したり、色々な要素を混ぜすぎたりすると、選手は「今日の練習は何を意図していたのか?」と混乱してしまいがちです。そこで、一回のトレーニングでは一つか二つの要素にフォーカスし、そこを重点的に反復することを意識します。これが積み上げの基礎となり、後日別のトレーニングと結びつけることで、総合力を引き上げることができるようになります。
トレーニングの構築
ゲームから逆算して状況を“創り出す”
サッカーは最終的に「試合(ゲーム)」がすべてです。どんなに個人技や戦術を練習しても、それが試合で再現できなければ意味がありません。私が大切にしているのは、トレーニングを構築する時点で「試合のどの場面を意図しているのか」をはっきりさせるということ。
- シチュエーションを明確に
たとえば、「相手のハイプレスをかわす場面を想定しているのか?」「自陣から攻撃に転じるカウンターの場面を想定しているのか?」など、細かく切り出すことでトレーニングが具体化します。 - 繰り返し体験することで“無意識の質”を上げる
選手はゲーム中、余裕がない状態でも自然と体が動くようにならなくてはなりません。そこで、同じシチュエーションを何度も体験することで「この場面ではこう動く」という反射レベルまできたえあげます
現実的か?
ゲームとかけ離れた練習の弊害
「どうすれば選手が納得感を持って練習に取り組めるか」が非常に重要です。もしトレーニング内容がゲームの流れとかけ離れていたり、試合で再現しづらいことばかりを延々と練習していると、選手は「これは何のためにやっているのだろう?」と疑問を抱いてしまいます。モチベーションが落ち、集中力が続かない要因にもなりかねません。
5.現象ではなく原因を把握すること
粗探しは選手の成長を阻む
練習中や試合中にミスが起きたとき、つい「なぜあそこでパスをミスするんだ!」「もっとしっかりやれ!」と責めてしまう指導者は少なくありません。ですが、そのミスがなぜ生じたのかを考えずに「現象だけ」を追求してしまうと、根本的な解決には至らず、選手の自信を削ってしまう可能性があります。
- ミスに至る過程を追う
オフザボールの動き、味方との距離感、守備陣のプレスのタイミングなど、ミスが起きる前段階で問題がなかったかをチェックします。そこに気づけるかどうかが、指導者の腕の見せどころです。 - コーチングの質を高める
「なぜ失敗したのか?どうすれば成功に近づけたのか?」を選手と共有することで、次のプレーに活かせる具体的な改善策が生まれます。粗探しや結果論の指摘に終始しないことが大切です。
トレーニング設計にも繋げる
ミスの原因を把握できれば、次のトレーニングのテーマやオーガナイズをどうするかが見えてきます。たとえば「サポートが遅いのが原因だ」と分かれば、サポートの動きを重点的にトレーニングに組み込むことができます。こうして“再発防止”と“成長”を同時に実現していきます。
6.強度のコントロール・失敗/成功のバランス
適切な設定を心掛ける
サッカーの指導において、強度の設定は最も重要なファクターの一つです。特に、高すぎても低すぎても選手のモチベーションと上達効率に悪影響を及ぼします。
- 高すぎる強度
選手が疲弊しすぎて正確な技術を発揮できず、失敗が連続してしまうと、「なんだかうまくいかない」と感じて意欲を失う場合があります。ケガのリスクも高まります。 - 低すぎる強度
選手にとって簡単すぎると、集中力も散漫に。達成感や進歩感を得られず、「練習している意味があるのだろうか」と思わせてしまうことも。
失敗と成功の程よいバランス
- 選手の表情が重要
練習中、選手がどの程度「楽しそうに」かつ「真剣に」取り組んでいるかを観察します。ほどよい苦戦感と成功体験が交互に来るとき、選手は最も躍動します。 - 難易度調整のテクニック
- コートサイズを変える(狭くすれば難易度UP、広くすれば難易度DOWN)
- タッチ数を制限する(1タッチや2タッチ限定で難易度UP)
- 守備側の人数を増減する(攻撃優位にするか、守備優位にするかで難易度調整)
こうした調整によって、選手がギリギリでクリアできるレベルの課題を設定し続けることができます。人は“やや難しい課題”をクリアしたときに最も成長感と達成感を得やすいと言われます。まさに指導の妙が求められるポイントです。
まとめ
最後に、ここまで紹介してきた6つのポイントを簡単に振り返りましょう。
- アラートなトレーニング
- 適切な時間、強度、内容、負荷を考慮することで、選手が集中力を保てる環境を作る。
- 明確な声かけや区切りを設定し、高い意識状態を維持させる。
- 反復の数を増やす
- テーマを明確にし、ブレないオーガナイズを設定することで、効率的に反復を積む。
- 一度のセッションで欲張りすぎず、重点を絞った反復が積み上げへと繋がる。
- トレーニングの構築
- ゲームのどの場面を想定しているかを明確化し、段階的に練習内容を構成する。
- 制限付きゲーム→フリーゲームの流れで、意図を実際の試合に近い形で試せるようにする。
- 現実的か?
- ゲームからかけ離れた練習は、選手の納得感を失わせてしまう。
- ルール設定やゴール設定などでゲーム性を取り入れ、試合での再現性を高める。
- 現象ではなく原因を把握すること
- ミスが起きた瞬間だけを見て叱責するのではなく、その前の段階や根本原因を探る。
- 選手と共有することで建設的な修正点が明確になり、トレーニング設計にもフィードバックできる。
- 強度のコントロール・失敗/成功のバランス
- 選手が挑戦しがいのある適度な難易度を設定し、成功と失敗を繰り返しながら成長を促す。
- 選手の様子を見ながら臨機応変に調整することで、最高の集中力とやる気を引き出す。
トレーニングに向けて
何より重要なのは、選手が納得し、喜びと挑戦心を持って取り組むトレーニングを提供すること。そのためには、指導者自身があらゆる視点から状況を観察し、トレーニング後の振り返りも欠かさず行うと良いでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。ぜひ、今回紹介したポイントを参考にしながら、自チームのトレーニングをより充実させていただければ幸いです。皆さんの指導のヒントに少しでもなれば嬉しく思います。
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