はじめに
以前に鹿島アントラーズについての記事を書かせていただいています。

鹿島アントラーズといえば、「常勝軍団」という異名を取るほど国内外で数多くのタイトルを獲得してきた名門クラブです。しかし近年は優勝からやや遠ざかり、2024年シーズンもリーグ5位という結果にとどまりました。カップ戦でも途中敗退が続き、鹿島らしい“勝負強さ”を発揮しきれなかった印象があります。
それでも、盤石な守備力やセットプレーでの得点力は依然としてリーグ屈指の水準を保っており、攻守にタレントを擁する戦力は魅力十分です。新たに2025年シーズンを迎えた鹿島は、新監督の下でどのようにチームを進化させ、常勝軍団復活へと近づいていくのか。ここではまず2024年の戦いぶりを改めて振り返り、その上で2025年に入ってからの戦術・フォーメーション、主力選手のデータや監督の采配を踏まえ、今シーズンの展望と期待をまとめていきます。
2024年シーズンの回顧
ランコ・ポポヴィッチ体制と4-2-3-1
2024年の鹿島アントラーズは、新監督ランコ・ポポヴィッチの下でスタートしました。欧州での指揮経験や高い練習強度、そしてハイプレスを軸とした攻撃的なサッカーが特徴の指導者であり、**主に「4-2-3-1」**のシステムを採用。
- リーグ戦38試合中32試合を4-2-3-1で戦い、残り数試合で4-4-2や3-4-2-1を試す程度。
- 高い位置でのボール奪取を狙う積極的なプレス戦術と、サイドバックの攻撃参加を重視。
- 「粘り強く勝つサッカー」を掲げ、90分間ハードワークする集団を作り上げようと試みました。
序盤こそチームに新風を吹き込み、開幕戦で名古屋に3-0と快勝するなど順調な船出を見せ、一時は首位争いに加わるほどの勢いを誇りました。しかし、夏場以降になると相手の対策や過密日程の影響も重なり、思うように勝ち点を積み上げられない時期が訪れたのです。
攻撃面:セットプレーの威力と新たな得点源
2024年の鹿島を語るうえで見逃せないのが、セットプレーでの得点力です。リーグ戦60得点のうち12得点がCKやFKから生まれ、約30%という高い割合を記録。「J1で最もセットプレーに強いチーム」と評されるほどで、正確な右足キックを持つ樋口雄太がリーグトップの12アシストをマークし、そのうち9本がセットプレー起点でした。
さらに、エースストライカーの鈴木優磨が自己最多15ゴールを挙げたほか、大卒ルーキーの濃野公人が右サイドバックながら9得点という“第二の点取り屋”として大ブレイク。長身と決定力を武器にセットプレーやカウンターのフィニッシュ役にもなり、鈴木と濃野だけで4割近いゴールを稼ぎ出しました。
流れの中でも両サイドからの崩しと中央突破がバランスよく使われ、左SB安西幸輝のオーバーラップやトップ下名古新太郎の推進力など、多彩な攻撃オプションを披露。全体としてシュート数や期待得点値はリーグ中位程度でしたが、フィニッシュの精度とセットプレーの強みでゴールを積み重ねたのが特長です。
守備面:ハイプレスと粘り強い最終ライン
ポポヴィッチ監督が強く打ち出したのが、前線から連動したプレスと素早いリトリートの切り替え。4-2-3-1のトップ下や両サイドアタッカーを積極的に動かし、相手のビルドアップを封じる戦術が浸透しました。
最終ラインでは植田直通と関川郁万のセンターバックコンビが中心に安定感をもたらし、GK早川友基が全試合フル出場で最後尾を支えます。結果的に**リーグ失点41(20チーム中4位)と堅守を発揮し、クリーンシートも9試合に上る記録を打ち立てました。
とはいえ、高いラインを保ちながらのハイプレスにはリスクもあり、シーズン中盤から後半にかけて相手がプレスを剥がしてくる戦い方をすると、背後を突かれて失点する場面が散見。粘り強さこそ示しましたが、最終的には「あと一押し」**が足りずに勝ち点を取りこぼす試合が増えていきました。
最終成績:リーグ5位&カップ戦敗退
明治安田生命J1リーグ2024で、鹿島は18勝11分9敗・勝点65という成績で5位に入りました。得点60・失点41、得失点差+19はリーグ有数のバランスを示し、前半戦を中心に首位争いに食い込む健闘を見せたものの、優勝した神戸(勝点72)とは差が開き、3位の町田にも勝点1及ばずACL出場権を逃します。
カップ戦では、天皇杯がベスト8止まり、ルヴァンカップはグループステージ初戦で新興勢力の町田ゼルビアに0-2と敗れ、早々に姿を消しました。主力を温存した影響もあるとはいえ、「取りこぼし」が多かった印象が残ります。
シーズン終盤には成績不振を理由にポポヴィッチ監督が契約解除となり、コーチ陣の暫定指揮のままリーグ戦を乗り切る事態に。結局無冠でシーズンを終え、「常勝軍団」としては納得しがたい結果に収まったと言えます。
2025年シーズン序盤の戦況
新監督・鬼木達の就任と4-4-2への回帰
2025年から指揮を執る鬼木達監督は、かつて川崎フロンターレで7つのタイトルを獲得した名将。攻撃的なポゼッションサッカーをベースにしながら、守備にも高い連動性を求めることで知られています。鹿島では**伝統の「4-4-2」**を基本布陣に設定し、シーズン序盤の2試合でも実際に4-4-2を採用しました。
- 鈴木優磨と新加入のレオ・セアラを2トップに据え、MFには柴崎岳や知念慶、右サイドハーフに荒木遼太郎や小池龍太といったフレキシブルな選手を配置。
- 守備ラインはCB植田直通と関川郁万のコンビ、SB安西幸輝や濃野公人、小池龍太などを状況によって使い分ける。
- 「ボールを保持しながらの攻撃的サッカー」と「前線からのプレス」の両立を目指す。
実際、開幕戦の湘南ベルマーレ戦では相手の高い運動量に苦戦して0-1で敗戦となりましたが、守備のコンパクトさやプレスの連動には一定の手応えがあったようです。第2節の東京ヴェルディ戦では布陣を微調整し、右SBに濃野、右SHに小池を起用する形がはまり、4-0の大勝を収めています。
主力選手について
2025年シーズン開幕から2試合を終えた段階(2月末)での主な選手の動向は以下の通りです。
- FW鈴木優磨
昨季15得点のエースは、開幕から2試合で2ゴールを挙げる好スタート。第2節ではPKを含めた得点でチームを牽引しており、今季も変わらず攻撃の核として機能しています。試合後のコメントでは攻撃面の連携やテンポへの課題を口にするなど、より上を目指す姿勢が伺えます。 - FWレオ・セアラ
C大阪で21得点を挙げた実績を持つストライカーが今季から鹿島に加入。第2節で2ゴールを記録し、早くも得点ランキング上位に名を連ねています。鈴木との2トップは破壊力があり、両者合わせて2試合4得点という好調ぶりはチームにとって大きなプラスと言えます。 - MF柴崎岳
中盤の司令塔として最も多くボールに関与し、チーム全体のパス成功率を引き上げています。まだアシストこそ記録していませんが、セットプレーのキッカーを務め、攻撃の起点として機能。鬼木監督も「攻守のバランスを担うキープレイヤー」との期待を明言しています。 - 小池龍太
本来はサイドバックの選手ながら、第2節で右サイドハーフに抜擢され2アシストを記録。高い位置でのボール奪取や運動量を生かしたプレスで守備にも貢献し、鬼木体制の“エネルギッシュなサッカー”を体現している選手の一人です。 - 守備陣(植田直通・関川郁万・GK早川友基)
2試合で失点はわずか1。第2節ではクリーンシートを達成し、後方の安定感が光ります。昨季からCBコンビを務める植田と関川の相性は抜群で、空中戦や1対1の強さを発揮。早川は開幕戦で複数のセーブを見せ、孤軍奮闘の末も最少失点で食い止めました。
戦略・采配
鬼木監督は川崎F時代にポゼッションサッカーで大きな成果を収めただけでなく、対戦相手に合わせた柔軟な戦術変更でも評価を得てきました。鹿島でもその采配は健在で、
- 開幕戦では湘南の左WBに守備の強い小池をぶつけ、濃野はベンチスタート。
- 第2節では小池を右SH、濃野を右SBとし、前線でのプレス強度を高めながら一気に4得点を奪う。
など、短期間で修正力を見せています。試合中の交代カードも素早く、多くの攻撃的選手を投入して流れを変えようとする姿勢が目立ち、これはポポヴィッチ体制にも通じる積極性と言えるでしょう。
ただし、鬼木監督自身も「もっとコンパクトに、もっとアグレッシブに前からはめていきたい」と課題を口にしており、特に開幕戦の湘南に先制を許した後の修正点をどこまで詰められるかがシーズンの鍵になりそうです。
今シーズンに寄せる期待と課題
攻撃力のさらなる爆発に期待
4-4-2をベースとした2トップに、鈴木優磨とレオ・セアラというリーグ屈指の決定力を持つアタッカーが並ぶことで、鹿島の得点力は今季大幅に向上する可能性があります。すでに第2節で4ゴールを奪うなど、**“二枚看板”**が噛み合えば大量得点も狙える布陣です。
同時に、樋口雄太の正確なキックを生かすセットプレーは2024年に続く大きな武器になるでしょう。さらに、中盤やサイドハーフを本職とする選手が多い鹿島は、メンバーを入れ替えてもさほどクオリティが落ちず、長いシーズンを乗り切るうえでの強みとなります。柴崎岳を中心としたパス回しやポゼッション向上が進めば、ゴール前での崩しに一層多彩さが出るはずです。
守備ブロックの完成度とプレスの継続性
昨季に続き、最終ラインには植田&関川の強力CBコンビが控えており、両SBにも濃野や安西、小池と人材がそろっています。GK早川も安定感を見せ始めており、後方からのコーチングやフィード精度の向上が期待されます。
とはいえ、ポゼッションを高めるほど相手のカウンターを受けやすくなるのも事実。鬼木監督が志向する攻撃的サッカーを実現するためには、前線からのハイプレスと中盤の潰し役が不可欠となります。知念慶や小池龍太といったハードワーカーの配置によって、そのリスクをどこまで抑えられるかが鍵。もしプレスが剥がされるようになると、昨季同様に背後のスペースを突かれる脆さが露呈する可能性があります。
選手層を生かしたカップ戦・ACLへの挑戦
ここ数年、リーグ優勝から遠ざかっている鹿島ですが、国内カップ戦やACLにも大きなモチベーションを持って臨むはずです。2024年は天皇杯ベスト8、ルヴァンカップはグループステージで敗退したものの、今季は監督や戦術の刷新により、短期決戦でも持ち味が生きる展開が期待されます。
特にルヴァンカップは若手や控え選手の“底上げ”が勝敗を分けるケースが多く、鹿島のアカデミー出身や大卒ルーキーの活用がカギになるでしょう。リーグ戦ではレギュラーを務める選手も含めて、トーナメントで優勝を争うためには選手層の厚みが欠かせません。ACL出場権獲得へ向けたリーグ戦の順位アップと合わせ、複数タイトルを視野に入れることができるかが注目されます。
“常勝軍団”復活をかけて
2025年シーズンは、ポポヴィッチ体制がもたらした要素(ハイプレス・セットプレーの威力)を継承しつつ、鬼木監督の新たなエッセンス(4-4-2でのポゼッション&前線からの守備)を組み合わせる重要な過渡期と言えます。2試合を終えた現段階で1勝1敗という結果は、期待と課題の両方を浮き彫りにしました。
今後、対戦相手による研究が進むにつれて、鹿島がこれまで以上にアグレッシブなプレスを維持しながらボールを動かす力を発揮できるかがポイントです。二枚看板の得点力が持続すれば、昨季以上の勝ち点ペースが期待され、上位進出、ひいては優勝争いにも名乗りを上げる可能性があります。
まとめ—常勝軍団“未来の鹿島”
2024年にランコ・ポポヴィッチ監督が打ち立てたハイプレス・セットプレー重視のスタイルは、リーグ5位・無冠という結果で終わりながらも、一時的に首位争いに加わるだけのポテンシャルを示しました。鹿島には依然として名門の底力があり、守備とセットプレーにはリーグトップクラスの強みが存在するのです。
一方で、「あと一押し」が足りないままシーズンを終えてしまい、カップ戦でも早期敗退を喫したことから、フロントは監督交代という決断に踏み切りました。そして2025年、攻撃サッカーを志向する鬼木達監督が就任。伝統の4-4-2に回帰しつつも、ポゼッションと前線からの守備を融合させていこうとしています。実際、開幕2試合で4ゴールを奪った爆発力が、今シーズンの鹿島の可能性を十二分に感じさせる材料となりました。
もっとも、1試合は無得点で敗れるなど、チームにはまだまだ成熟の余地が残っています。柴崎岳を中心とした中盤のコンビネーション、鈴木優磨とレオ・セアラの2トップの連携、濃野や小池のサイド活用など、ポジティブな要素をいかに安定的に引き出すか。鬼木監督が得意とする“試合ごとの修正力”をフルに発揮すれば、長丁場のリーグ戦で粘り強く上位に食い込み、タイトル奪還を狙うシナリオも十分に描けるでしょう。
また、カップ戦ではローテーションの巧拙が明暗を分けるため、若手や控え選手の底上げも不可欠です。濃野公人のようなルーキーの大ブレイクが新たに生まれれば、シーズン終盤にかけて大きなアドバンテージとなります。クラブとしても複数タイトルへ挑む覚悟を持って臨むはずで、“常勝軍団”としてのプライドがここで試されることになるのです。
今季こそ、「失われた王座を取り戻す」ためのシーズンになるのか。ポゼッションとハイプレスが融合した鬼木サッカーをベースに、伝統の勝負強さとセットプレーの威力をさらに磨き上げれば、鹿島は再びリーグ優勝やACL出場権を強く狙える立場に戻るでしょう。序盤戦で見えた課題を修正しながら、勢いを継続できるかが焦点です。サポーターの熱狂的な応援を背に、鹿島アントラーズが常勝軍団としての矜持を示す2025年。これまで感じられなかった“新しい鹿島”の姿が、タイトル争いの最前線で花開くかもしれません。
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