トーナメントでは毎年のように番狂わせが起こります。ただ、それを運や気持ちの強さだけで説明してしまうと、次に同じことを起こすための材料が残りません。我々は、ジャイアントキリングを起こすチームは、勝つ方法を考え抜いて戦っているからこそ、その確率を上げていると考えています。
技術や選手層で差があっても、相手が力を発揮しやすい場面を減らし、自分たちが勝負できる場面を作ることはできます。今回は4-4-2を例に、戦力差のある試合で勝つ可能性を高める一つの戦い方を、成り立つ条件まで含めて整理します。もちろん、戦術で勝利を約束できるわけではありません。
まず考えたいのは、本当にすべての面で相手に劣っているのかということです。フォワードのスピード、セットプレーのキックの精度など、勝負できる部分を見つけておくことが、戦い方を決める出発点になります。
最初に共有するのは「何を優先するか」
格上と戦う前に、チームで整理しておきたい問いが4つあります。この記事は、この4つの問いに順番に答えていく形で進めます。
- どこを守るか
- 何を許すか
- どこで奪うか
- 奪った後と失った後に、誰が何をするか
優先順位がそろっていないと、一人は前から追い、もう一人は背後が気になって下がる、というように判断が分かれ、前と後ろの距離が広がってしまいます。また、勝ち点1でいいのか、何としても勝つ必要があるのかという試合の目的も、事前にはっきりさせておきます。
今回の戦い方では中央の危険な場所を守ることを最優先にし、そのかわりブロックの外側で相手がボールを持つ時間はある程度受け入れます。これは消極的に待つことではなく、前に出る場面と陣形を保つ場面を全員で区別するということです。
「持たせる守備」は、何を守れている状態か
我々が大切にしている約束事に、「自分たちの目の前を通るパスは、何本通されてもかまわない」というものがあります。相手が外で横にボールを動かすたびに飛び出すと、そのたびに内側にスペースができてしまうからです。目の前をパスが通る立ち位置を取り続け、中央へのコースを閉じながら全員でボールに合わせて移動すると、自然と中央に塊ができあがります。
| 許すもの | 守るもの |
|---|---|
| 横パス・バックパス | 縦パスと、選手と選手の間を通すパス |
| ブロックの外での保持 | 中央への侵入と、危険な場所での前向きの受け |
ボールを「持たれている」と考えるのと「持たせている」と考えるのとでは、選手の心の余裕がまったく違います。ただし、外からのクロスや逆サイドへの展開、背後へのボールには対応が必要です。うまく持たせているかどうかは支配率ではなく、危険な前進を止められているか、次の攻撃にも対応できているかで確認します。
ブロックは、人数より連動で保つ
4-4-2で相手のボールがサイドに移動した場面では、ボール側のサイドハーフが対応に出て、中盤の中央の選手が内側への侵入コースを閉じます。サイドバックとセンターバックは、前の選手の寄せ方と相手の動きに合わせて位置を調整します。逆サイドの選手も、ボール側に寄るだけでなく、逆サイドから走り込む選手やファーサイドへのクロスに備えます。
押し込まれるのが怖くて最終ラインだけを下げると、中盤との間が空いて前を向かれてしまいます。一人が前に出たら、空いた場所を周りが埋める。横のスライドと縦の距離を一緒に管理することが、強いブロックの条件です。
縦パスを「奪い所」にするための条件
強固なブロックができていれば、相手はなかなか縦パスを入れられません。でも、外で回しているだけでは点が取れないので、いつかは中に入れなければいけません。このジレンマから、相手が少し無理をして入れてくる縦パスが狙い目になります。ただし、相手が必ず焦るとは限らないので、相手の心理だけに頼らず、奪える条件をそろえておきます。
- 出し手のコースを制限し、通せるパスを限られたものにしておく
- 受け手が前を向く前に、近くの守備者が寄せられる
- 周りの選手が、落としや次のパスを警戒している
縦パスが入っただけで全員が飛び出すのではなく、最初の選手が寄せて周りが逃げ道を消し、残る選手が背後を管理します。中で奪い切れないときは、後ろ側のコースをあえて空けてボールを外へ吐き出させ、ブロックを整え直して次の縦パスを待ちます。
奪った後は、少人数で得点へ向かう
相手が押し込んできている分、相手の最終ラインの背後には広いスペースが残っています。我々が実際に採用していた約束事は、「カウンターは3人で完結させる」というものでした。2人のフォワードとボール側のサイドハーフで、シュートまで持ち込みます。
| 役割 | やること |
|---|---|
| 収める選手 | 前線でボールを持ち、時間を作る |
| 背後を狙う選手 | 相手の最終ラインの裏へ走る |
| 支える・追い越す選手 | ボール側のサイドハーフが近くで関わる |
足の速い選手やボールを収められる選手を前線に置いておくのも一つの工夫です。ただし、奪った場所や相手の残り方によって必要な人数は変わります。背後が空いていないときや出し手に余裕がないときは、無理に速攻を続けない判断も必要です。「3人」は今回の戦い方の約束事であり、すべてのカウンターに当てはまる決まりではありません。
攻撃に出ない選手も、次のプレーを準備する
後ろの選手が低い位置に残りすぎると、前線の3人が孤立し、クリアされたボールも相手に拾われやすくなります。そこで後ろの選手もラインを押し上げ、攻撃に加わるのではなく、相手の前線の選手のマークを確認しながら、こぼれ球と背後へのボールに備えます。
ボールを失ったときに、その場ですぐ奪い返しに行くのか、戻ってブロックを作り直すのかも決めておきます。自陣の深いところで奪ったときに、どの選手やエリアを目指して蹴るのかを決めておけば、クリアがそのまま次の攻撃の始まりになります。
残っていることと、ただ動かずに待っていることは違います。攻撃が終わってから守備を考えるのではなく、攻撃している間から次の守備を準備しておくことが、この戦い方を最後まで支えます。
まとめ:格上と戦う前に決めておく4つの約束事
| 約束事 | 今回の戦い方では |
|---|---|
| どこを守るか | 中央の危険な場所 |
| 何を許すか | 目の前を通るパス、ブロックの外での保持 |
| どこで奪うか | 中に入ってくる縦パス |
| 誰が何をするか | 3人で完結する攻撃と、残る選手の次の守備への準備 |
ただし、この戦い方を90分間そのまま続ければいいわけではありません。相手がクロスやサイドチェンジを増やしてきたら、クロスへの寄せ方や逆サイドの管理を調整します。縦パスを急がずに運んできたら、誰が運ぶ選手に出ていくのかを決め直します。先制された場合は、どの時間帯から、どの場所で奪いに行くのかを変える必要があります。反対に前半を無失点で終えられれば、後半に相手が焦り始めたところで勝負をかけるゲームプランも立てられます。
戦力差を埋めるのは、全員が同じ約束事を共有して、最後までやり切ることです。格上と戦うときは、まずこの4つの約束事を、選手と一緒に言葉にするところから始めてみてください。