――「カレンダー」ではなく「選手の脳内」を基準にする視点――
サッカーの指導現場で、最も多く寄せられる質問の一つがこれです。
「トレーニングメニューは、毎日変えるべきか、それとも固定すべきか?」
週替わり、月単位、あるいはルールだけを変える可変式。明確な“正解”を求めたくなるのは、指導者としての誠実さの表れです。しかし、メソッドラボが提唱する視点は異なります。トレーニングメニューを変えるかどうかを決める基準は、日付ではなく「選手に起きた変化(更新)」にあります。
メニューは「指示書」ではなく「問い」である
「メニューは指導者から選手への問いかけである」という考え方があります。
- 「この状況で、君ならどうやって時間を作る?」
- 「この守備ブロックを、どうやって剥がす?」
メニューとは、特定の課題を解決させるための「環境(問い)」です。 もし選手がその問いに対して、すでに「無意識に、かつ高い精度で」答えを出せるようになっているのであれば、そのメニューは役割を終えたことになります。逆に偶然の成功に頼っていたりするのであれば、頻度に関係なく、その環境を維持して「深掘り」させる必要があります。
「定着」と「飽き」の境界線
メニューを固定するメリット(深化)
同じメニューを繰り返すことで、選手は「やり方(ルール)」への意識を減らし、より「現象の細部(駆け引き)」にリソースを割けるようになります。 「ルールを覚える」段階から「相手を騙す」段階へ移行するには、ある程度の反復期間が必要です。
メニューを変えるメリット(覚醒)
一方で、慣れすぎて「予測可能」な状況になると、脳は省エネモードに入り、思考が止まります。 この「慣れ(停滞)」と「習熟(洗練)」を見極める眼こそが、指導者の真価です。選手が作業的にメニューをこなし始めた瞬間が、環境をアップデートすべきタイミングです。
「メニューを変える」のではなく「解像度を上げる」
「メニューをガラッと変える」ことだけが変化ではありません。おすすめはメニューの枠組み(カタチ)は維持しつつ、設定の解像度を上げていく手法です。
- グリッドサイズを1メートル絞る: 認知のスピードを要求する。
- フリーマンの役割を制限する: 特定のパスコースを意識させる。
- タッチ数を制限・開放する: 判断のプライオリティを揺さぶる。
このように「問いの角度」を少しずつ変えることで、選手は同じメニューの中でも新しい「ズレ」や「発見」に出会うことができます。これが、マンネリを防ぎつつ原理原則を深く浸透させる最も効率的な方法です。
指導者の「不安」がメニューを複雑化させていないか
「毎日違う練習をしなければ、選手が飽きてしまうのではないか?」 この不安は、往々にして指導者のエゴになりがちです。われわれの視点で見れば、選手が飽きているのではなく、指導者が自分の「手札の少なさ」を隠すためにメニューを変えてしまうケースが散見されます。
大切なのは、新しいメニューを提示して選手を驚かせることではなく、一つのメニューからどれだけ多くの「学びの種」を引き出せるかです。同じメニューでも、コーチングの切り口一つで、選手にとっては全く新しいトレーニングへと変貌します。
結論
トレーニングメニューの頻度に「1週間」や「1ヶ月」という定規はありません。 私たちが観察すべきは時計ではなく、選手のプレーの「意図」です。
- 導入期: 仕組みを理解し、現象が起き始める。
- 習熟期: 意図的なプレーが増え、成功の再現性が高まる。
- 洗練期: 無意識に原則を使いこなし、相手との駆け引きを楽しめるようになる。
この第3段階に達し、選手に余裕が見え始めたときこそ、メニューを「変える」あるいは「より困難な条件を足す」べきタイミングです。
トレーニングメニューは、指導者のコレクションではありません。選手が成長するための「実験場」です。
「今日はどの練習をやろうか?」と考える前に、「今の選手たちは、前回の練習で得た問いを自分たちの血肉にできているだろうか?」と自問してみてください。
頻度という数字に縛られるのをやめたとき指導の視界はもっとクリアになり、選手の細かな変化に気づけるようになるはずです。


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