――「同じトレーニング × 違う観点」がチームを育てる
サッカーの指導現場で、多くの指導者が直面する悩みがあります。それは、「レベルの差」や「意識の差」をどう扱うか、という問題です。
同じトレーニングをしていても、すぐに理解し実行できる選手がいる一方で、何を意図しているのか分からず戸惑う選手もいる。意欲的に改善点を探す選手もいれば、言われたことをこなすだけで精一杯な選手もいます。
この差を前にして、指導者は悩みます。
- 「メニューを分けるべきか」
- 「レベルの高い選手に合わせるべきか」
- 「全員を同じ基準で評価すべきか」
しかし、多くの現場を見てきた中で感じるのは、トレーニングを分けることが、必ずしも最適解ではないということです。むしろ大切なのは、同じトレーニングを行いながら、選手ごとに“見る観点”と“届ける言葉”を変えることなのです。
レベル差は「問題」ではなく「前提条件」
まず大切なのは、レベルや意識の差は「あってはいけないもの」ではなく、チームに必ず存在する前提条件だと捉えることです。
育成年代であれば、身体の成長差、経験値、家庭環境、理解スピード——そのすべてが異なります。大人のチームであっても、価値観や目標、サッカーへの向き合い方は一様ではありません。
差をなくそうとすればするほど、指導は苦しくなります。
差を「整える」よりも、「活かす」視点を持つことが、指導者自身を楽にし、チームを前に進めます。
同じトレーニングでも、全員が同じ学びを得る必要はない
よくある誤解があります。それは、「同じトレーニングをするなら、全員が同じことを理解し、同じ基準でできるようになるべきだ」という考えです。
しかし実際には、同じメニューから得られる学びは、選手ごとに違っていて良いのです。たとえば、ポゼッションのトレーニング一つを取っても、観点は以下のように分けられます。
選手レベルに合わせたフォーカスの違い
- 経験の浅い選手: 「立ち位置」「ボールの受け方」
- 中堅の選手: 「判断のスピード」「味方との距離感」
- レベルの高い選手: 「次の展開を予測する力」「周囲を動かす振る舞い」
全員に同じ言葉を投げかける必要はありません。むしろ、それでは多くの選手の成長機会を逃してしまいます。
コーチングは「正解を教えること」ではない
レベル差があると、指導者はつい「正解」を示したくなります。特に理解の早い選手のプレーを基準にして、「こうやればいい」と全体に示す場面は少なくありません。
しかし、その正解は、すべての選手にとっての正解ではありません。
大切なのは、「何ができていないか」ではなく、「この選手にとって、今どこを伸ばすと前に進めるか」を見極めることです。
同じ場面でも、
- ある選手には「もっと早く判断できたね」
- 別の選手には「まずは顔を上げられたのが良かったね」
このように、評価の軸を変えることで、選手は「自分は見てもらえている」と感じます。それが意欲の差を埋め、次の成長につながっていきます。
意識の差は「姿勢」ではなく「視点の差」
「意識が低い」と言われがちな選手もいます。しかし、その多くは、本当に意識が低いのではなく、何に意識を向ければいいのか分かっていないだけの場合がほとんどです。
レベルの高い選手は、「このトレーニングで何を掴むか」「今日のテーマは何か」を自然と理解しています。一方で、経験の浅い選手は、目の前のプレーに必死で、そこまで視点が届いていません。
だからこそ指導者は、意識の低さを叱るのではなく、見るべきポイントを具体的に示す役割を担います。
- 「今日は“受ける前”を意識してみよう」
- 「全部できなくていい。今はここだけ見てみよう」
観点を絞ることで、選手は初めて“意識の向け方”を学びます。
「全員に平等」は、「全員に同じ」ではない
公平な指導とは、全員に同じ言葉をかけることではありません。
一人ひとりに必要な言葉を届けることこそが、本当の意味での平等です。
同じトレーニングの中で、
- 声をかけるタイミングを変える
- 評価する基準を変える
- 期待の置き方を変える
それは決して「えこひいき」ではなく、育成の技術です。
レベルの差があるから、チームは学び合える
最後に、大切な視点があります。レベルの差や意識の違いは、チームにとってマイナスではありません。
- 理解の早い選手が言語化することで、周囲の理解が深まる。
- 試行錯誤する選手の姿が、チームに挑戦する空気を生む。
指導者がそれぞれの立場を尊重し、「同じピッチで、違う学びをしていい」と伝え続けることで、チームは揃える集団ではなく、育ち合う集団になります。
まとめ:同じトレーニングで、違う成長を
レベルの差や意識の違いに悩む指導者ほど、実は繊細で、真剣に選手と向き合っている証拠です。だからこそ、すべてを揃えようとしなくていい。
同じトレーニングの中で、一人ひとりの現在地を見つめ、違う観点でコーチングする。その積み重ねが、選手を育て、チームを育て、指導者自身の引き出しを増やしていきます。
「同じことをさせる」のではなく、「同じ場で、違う成長を起こす」。
それが、レベルの差と向き合う指導者にとって、最も現実的で、最も温度のある答えなのではないでしょうか。私も日々試行錯誤、トライ&エラーしながら「その選手にとって何が一番良いのか?」を考えています。読者の皆様とまたこのようなテーマでお話しする機会を作成できるようにしたいですね。


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