――「ボールを動かす」では、相手は動かない
サッカーにおいて「パス」は最も基本的なプレーの一つです。練習でも試合でも、私たちは日常的にこう声をかけます。
「もっとボールを動かそう」
「パスを回そう」
「テンポよくつなごう」
しかし、その言葉通りにプレーが改善されることは、意外と少ないものです。なぜなら、そこにはパスの本当の目的が抜け落ちているからです。
私は、パスの目的は**「相手を動かすこと」**だと考えています。
「ボールを動かすこと」が目的になった瞬間に起きること
「ボールを動かせ」という指示が現場で機能しない理由は、とてもシンプルです。その言葉は、行動を具体化しないからです。
選手の頭の中では、以下のような問いが曖昧なまま、「とにかくパスをする」状態に入ります。
- どこに?
- なぜ?
- 誰のために?
結果として、以下のような「形だけのパス」が起きてしまいます。
- 相手が全く動いていない横パス
- 前を向けない安全なバックパス
- 受け手が困るだけの形式的なつなぎ
一見、ボールは動いている。けれど、相手は何も動いていない。
つまり、「ボールを動かすこと」が目的になった瞬間、パスは単なる**「作業」**になってしまうのです。
パスは「相手に何かを起こすため」の手段
本来、パスはそれ自体が目的ではありません。常に、相手に何かを起こすための手段です。
具体的には、以下のような変化を相手に強いるためにパスを出します。
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- 相手のラインを下げる
- 相手の重心をずらす(=相手に矢印を出させる)
- 相手の守備者を引き出す
- 相手の視野を分断する
これらすべてが「相手を動かす」行為です。
相手が動くからこそ、スペースが生まれ、時間が生まれ、次の選択肢が生まれます。パスは、相手を動かすための技術なのです。
「相手を動かす」という目的が、判断を変える
「このパスで、相手をどう動かしたいか?」
この視点を持つと、選手の判断は自然に変わります。
- 今はパスを出さない方がいい
- この位置に付けると相手が食いつく
- 一つ戻すことで、相手が前に出てくる
同じ“横パス”や“バックパス”でも、目的が違えば意味は全く変わります。
パスの価値は、ボールの移動距離ではなく、**「相手の変化量」**で決まるのです。
「目的」を伝えると、行動は具体化される
指導現場で、声かけを以下のように変えるだけで、選手の動きは劇的に変わります。
言い換えの例
- ×「ボールをもっと動かそう」○「相手の中央を広げたい。そのために一度外を使おう」
- ×「テンポを上げよう」○「相手がスライドしきる前に、逆を突こう」
後者には、明確な目的があります。目的があるからこそ、選手は**「どこを見るか」「いつ出すか」「なぜその選択をしたか」**を自分の中で整理できるのです。
目的は、選手の思考を一つに集める“軸”になります。
パスがつながらない時に見るべきポイント
パスがつながらない時、技術や判断力の問題に目が向きがちです。もちろんそれも一因ですが、本質は別のところにあります。
「このパスで、相手をどう動かそうとしていたか?」
ここが曖昧なままだと、パスはつながってもプレーは前進しません。逆に言えば、多少の技術的ミスがあっても、相手を動かす意図が共有されていれば、プレーはつながり始めます。
パスは“ボールの会話”である
パスは味方同士の会話であり、同時に相手へのメッセージでもあります。
- 「こっちに来い」
- 「そこを空けろ」
- 「今は我慢だ」
そのメッセージの先にあるのが、「相手を動かす」という目的です。
ボールを動かすことに意味があるのではありません。相手が動いたかどうかに意味があります。
まとめ:指導者が最初に整理すべき問い
最後に、指導者の方に一つ問いを投げかけたいと思います。
「今、選手に出させているパスは、相手に何を起こすためのものか?」
この問いが整理されると、トレーニングの設定も、声かけも、評価の基準も、すべてが変わってきます。
パスの目的を伝えることは、サッカーの“やり方”を教えることではありません。サッカーの“考え方”を共有することです。
ボールではなく、相手を見る。
動かすのは、ボールではなく、相手。
そこから、サッカーは一気に変化していきます。私も日々試行錯誤、トライ&エラーしながら「その選手にとって何が一番良いのか?」を考えています。読者の皆様とまたこのようなテーマでお話しする機会を作成できるようにしたいですね。


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