サッカーで成功するために、何をどれだけ練習すべきか——選手にとっても、指導者にとっても、保護者にとっても、これは永遠のテーマです。そして、この答えを誰よりも自身の経験で語れる日本人選手の一人が、本田圭佑選手でしょう。
本記事では、本田圭佑選手がプロサッカー選手向けのオンライン配信で語った内容をもとに、Method-Laboの視点から「成功する選手が本当に鍛えるべきもの」を整理していきます。結論を先にお伝えすると——本田選手が強調したのは、世間で軽視されがちな「動作力」、特にフィジカルでした。これは技術練習を否定するものではなく、年齢に応じた時間配分を見直すべきだ、という強烈なメッセージです。
本田圭佑が語る、サッカー選手の「4つの力」
本田選手はまず、サッカー選手がピッチ上でどのようなプロセスを経てプレーしているかを言語化します。それが「4つの力」と呼ばれるサイクルです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 認知力 | 物事をしっかり目で捉える——味方や敵の位置を把握する |
| ② 理解力 | 捉えた情報がどういう状況なのかを理解する——ピンチかチャンスか |
| ③ 計画力 | 状況を理解した上で、自分が何をするかを決める |
| ④ 動作力 | 決めたことをそのまま実行する力——思った通りに体を動かす |
そして本田選手が強調するのは、このサイクルの「速度」です。「これを1秒もかからないうちに一周している。1秒以内に2周することすらある。試合で何百周、何千周と繰り返している」——これがサッカー選手の本質的なプロセスだということです。
一流選手はこの4つの力が極めて高い。どれ1つ欠けても良いプレーはできない。選手によって特徴は分かれますが、基本的にはこの4つを高めることが、成功に近づく道筋になります——本田選手はそう語ります。
4つの力を最も効率的に伸ばすのはチーム練習——だが落とし穴がある
では、この4つの力をどう高めるのか。本田選手が指摘するのは、「チーム練習が最も合理的」という事実です。なぜなら、認知・理解・計画・動作の4つを同時に鍛えられるのは、実戦に近いチーム練習だけだからです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。それは——チーム練習の質が、指導者・チームメイト・対戦相手という「環境」に大きく左右されてしまうという事実です。
本田選手は具体例を挙げています。地方の小さなチームで小学1年生から練習し続ける場合、Jリーグの下部組織で練習し続ける場合、欧州のビッグクラブ(例えばバルセロナ)の下部組織で練習し続ける場合——同じ年数練習しても、確率論的にはバルセロナで育った選手が最も4つの力が伸びる可能性が高い。これは選手本人の努力ではなく、周囲の環境がそうさせるのです。
つまり、チーム練習という最も効率的なツールは、自分の意思だけではコントロールできない部分が大きい。これが、多くの選手が直面する現実的なジレンマです。
環境に左右されないために、自主トレで何を変えるか
では、自分でコントロールできることは何か。本田選手は2つを挙げます。
1つ目は「環境を変える」こと。移籍したり、より強いチームに行ったりする。しかしこれは、実力やお金、入学のタイミングなど、すぐに変えられない要素が絡みます。
2つ目は「自主トレを変える」こと。これは今日から、誰でも、自分の意思で変えられます。チーム練習に文句を言うのではなく、自主トレの中身を変える——これが本田選手のメッセージの核心です。
そして自主トレで何を変えるべきか。本田選手は4つの力のうち、最も自主トレで鍛えやすい「動作力」に焦点を当てます。なぜなら、認知力・理解力・計画力は実戦の中でしか効率的に鍛えられないが、動作力は一人でも徹底的に磨けるからです。
結論:軽視されがちな「動作力」こそ鍵だった
ここで本田選手が強く警鐘を鳴らすポイントが出てきます。それは——「動作力」が、特にプロを目指す層において軽視されているという指摘です。
動作力は、大きく分けて「技術」と「フィジカル」の2つに分かれます。そして本田選手が強調するのは、フィジカルこそ近年さらに重要性を増しているにも関わらず、多くの選手が技術練習に時間を偏重してしまっているという現実です。
なぜ技術練習に偏ってしまうのか
・ サッカーが好きだから——ボールを使う練習は楽しい
・ もっと上手くなりたいから——技術が伸びる実感がある
・ フィジカルトレーニングはきついから——走る、跳ぶ、地味で面白くない
・ 居残り練習でも続けやすいから——リフティング、シュート、パス練習
本田選手は誤解を避けるために、こう付け加えます。「技術練習で上手くならないとは言っていません。実際、私自身も大人になっても技術が伸びている実感があります。ただ、大事なのは時間の配分の話なんです」。
つまり、本田選手の主張はこうです——技術練習を否定しているわけではない。しかし、年齢に応じて時間の配分を考えるべきだ。それを無視してひたすら技術練習に偏るのは、「同じ時間の中で間違った努力」になっている可能性がある、ということです。
技術ボーナス時期=6〜15歳のゴールデンエイジ
では、いつ何を鍛えるべきなのか。ここで本田選手が紹介するのが、「技術ボーナス時期」という考え方です。
これは、劇的に技術が伸びる時期のことで、本田選手の体感では6歳から15歳ごろまで。一般的にもこの時期は「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、運動能力の吸収力が最も高まる時期として知られています。プレゴールデンエイジ(5〜8歳)からゴールデンエイジ(9〜12歳)にかけての期間は、ボールコントロールや基礎的な身体動作が劇的に伸びるとされています。
本田選手は、この年齢の選手たちにこう呼びかけます——「6歳から15歳の子は、決定的に練習量が必要です。リフティング、ドリブル、シュート、壁に向かってのパス。チーム練習だけでなく、自分でやる練習でもとにかくボールを自由に扱えるように、徹底的にやってください」と。
6〜15歳は、技術が一生で最も伸びる「ボーナス時期」。この時期に技術練習を怠ると、後から取り返すのは非常に難しい。だからこそ、この時期は技術トレーニングを徹底すべきです。
15歳以降は時間配分を変える——本田圭佑は「8:2」
そしてここからが本田選手の本当に伝えたいメッセージです。15歳という技術ボーナス時期を過ぎたら、時間配分を意識的に変えなければいけません。
多くの選手が陥る間違いは、ゴールデンエイジを過ぎても、ひたすら技術練習に時間を割き続けることです。これは「同じ時間を使った間違った努力」になりかねません。本田選手の言葉を借りれば、「うまくなることはなる。しかし時間の使い方として正しいかは別問題」なのです。
では、本田選手自身はどうしているのか。配信時の発言によれば、「比率的に言えば9:1か、よくて8:2くらい、フィジカルトレーニングに偏っている」とのこと。これは33歳時点での本田選手の自主トレの実態です。そして本田選手は「33歳になってもフィジカルが伸びている実感がある」とも語ります。
| 年齢 | 技術 vs フィジカルの比率(目安) | 理由 |
|---|---|---|
| 6〜15歳 | 技術中心(多めでOK) | 技術ボーナス時期、一生で最も伸びる |
| 15〜25歳 | 徐々にフィジカルへシフト | 技術の伸びが鈍化、フィジカル成長期 |
| 25歳以上 | フィジカル中心(本田選手は8:2) | フィジカルは40代まで伸ばせる |
そしてフィジカルトレーニングの中身も、漠然とした「走る」ではなく、加速・減速・タッグステップ・サイドステップ・ジャンプなど、サッカーで実際に必要な動きをポジションや自分の特性に合わせて徹底的に鍛えるべき、と本田選手は語ります。
早熟型の落とし穴——森本選手の例から学ぶ
もう一つ、本田選手が小学生年代の選手や保護者に強く伝えたい話があります。それが「早熟型の落とし穴」です。
小学校の年代で、体が大きく、運動能力が高い子がいます。地域では「めっちゃ上手い」と言われ、得点を量産し、周りからスーパープレーヤー扱いされる。しかし、この子こそ実は危ないのだ、と本田選手は警告します。
なぜか。早熟型の子は、4つの力のうちフィジカルが圧倒的に高いおかげで、認知・理解・計画の不足を補えてしまうからです。技術が多少粗くても、フィジカルだけで通用してしまう。だから本人も周りも「上手い」と勘違いし、技術練習を怠ってしまうのです。
しかし15歳を過ぎると、状況は一変します。周りの選手も体が大きくなり、足も速くなる。早熟型の子のフィジカル優位は消え、そこで初めて「あれ、技術が足りない」と気づく。しかし、ゴールデンエイジは過ぎてしまっている——この逆転現象は、サッカー界では本当によくある話です。
本田選手は、自身の同世代の例として森本貴幸選手の名前を挙げます。森本選手は15歳でJリーグデビューし、後にセリエAでプレーした怪物的な選手でした。「あいつ、小学校の頃に技術練習を結構怠ったんじゃないかな」と本田選手は指摘します。「もっと技術練習をやっていたら、本当に化け物のような選手になっていただろう」と。
これは森本選手を批判しているのではなく、「あれだけのフィジカルを持っていてもなお、技術練習の重要性は変わらない」という強烈なメッセージです。
フィジカルが、他の3つの力を補完するメカニズム
では、なぜフィジカル(動作力)を高めることが、これほどまでに重要なのでしょうか。本田選手は、その理由を「フィジカルが他の3つの力(認知・理解・計画)を補完するから」と説明します。
具体的には、こういうメカニズムです。フィジカルが向上すると、選手の中に「自分はこれだけのことができる」という事前情報、つまり自信が生まれます。すると、状況を見て、状況を理解して、何をするかを決める時に、その自信が判断に影響するのです。
例えば、後半80分にもう1本スプリントできる体力があれば、得点を取れるシーンも、失点を防げるシーンも増えます。フィジカルが向上したおかげで、これまではチャレンジしなかった意思決定が、できるようになる。意思決定の選択肢が、フィジカルによって広がるのです。
これは「フィジカルがあるから判断が変わる」という、見落とされがちなロジックです。多くの人は「判断が良いから良いプレーができる」と考えますが、実際には「フィジカルがあるからこそ、選べる判断の幅が広がる」という側面が大きい。本田選手はここを強調します。
本田圭佑が語る、成功するための3つの教訓
最後に、本田選手は自主トレを変える上での3つの教訓を提示します。これは、選手本人だけでなく、指導者や保護者にも知っておいてほしい考え方です。
教訓①:自分の長所につながる動作力強化を行う
動作力を高めると言っても、闇雲に走り込みをすればいいわけではありません。自分のプレーの長所、自分が試合で何をしたいのかを理解した上で、それに直結するトレーニングを選ぶことが重要です。
例えば「得点が取りたい」「ドリブル突破が長所」というイメージを持つ選手が、ひたすら持久系トレーニングだけをするのは、目的とつながっていません。むしろ、瞬発系・加速・方向転換のトレーニングを、守備直後で息が切れている状態で行う——こうしたサッカーの実戦に直結するメニューを選ぶことが大切です。
教訓②:試合に出られる自信のある環境を選ぶ
環境を選ぶ際、「強いチームに行けばいい」というアドバイスを真に受けすぎてはいけません。本田選手が強調するのは「試合に出られる自信があるチームを選ぶこと」です。
強豪校に入っても、3年間1試合も出られなければ成長は限定的です。プロ選手の移籍と同じで、「監督が自分を必要としているか」「自分の長所が生きるサッカーをしているか」を主観的に見極めることが大切です。レベルが高いだけでなく、自分が活躍できる環境こそが、本当の意味での成長環境になります。
教訓③:ビッグマウスであれ——逃げ道を断つ
そして3つ目、本田選手の真骨頂とも言える教訓が「ビッグマウスであれ」です。
本田選手は「人間は弱い。私自身も自分に勝てない時がある」と率直に語ります。フィジカルを伸ばすのも、長期的な努力を続けるのも、骨の折れる作業です。3日や1週間で結果は出ません。1ヶ月、3ヶ月、半年、1年、3年、5年、10年——本当に終わりがない。
そういう時、人間はどこかで逃げる準備をしてしまう。だからこそ、自分が成功したいと思っていることを「言語化して言葉にして発する」ことが重要です。言ってしまえばもう、やらざるを得ない。逃げ道がなくなる。
「ビッグマウスじゃないという、内に秘めるタイプもいい」と本田選手は続けますが、それでも自分の責任を引き受け、覚悟を決めるためには、口に出して責任を発生させる必要がある——これが本田選手の最後のメッセージです。
まとめ:技術と動作力の時間配分こそが成否を分ける
本記事では、本田圭佑選手が語った「サッカー選手の成長プロセス」と「動作力の重要性」について整理してきました。最後に、最も大切なメッセージをもう一度お伝えします。
サッカー選手として成功するためには、認知・理解・計画・動作の4つの力が必要です。そしてこの4つを最も効率的に伸ばすのはチーム練習ですが、環境に左右されてしまう面があります。だからこそ、自主トレで「動作力」を磨くことが、自分でコントロールできる成功への近道になるのです。
そして大切なのは年齢に応じた時間配分。6〜15歳は技術ボーナス時期、それ以降は徐々にフィジカルにシフトしていく。本田選手自身、33歳の時点で技術:フィジカル=1:8〜2:8くらいの比率で取り組んでいると語っていました。これは1人の現役プロ選手の実体験から導かれた、極めてリアルな指針です。
📌 この記事のまとめ
- サッカー選手の4つの力=認知力・理解力・計画力・動作力(1秒以下で1周)
- 4つを最も効率的に鍛えるのはチーム練習だが、環境に左右される
- 自分でコントロールできるのは「環境を変える」か「自主トレを変える」
- 自主トレで磨くべきは動作力——特に技術 + フィジカル
- 6〜15歳は技術ボーナス時期、徹底的に技術練習を
- 15歳以降は時間配分を変える、本田選手は8:2でフィジカル偏重
- 早熟型の落とし穴——フィジカル優位で技術を怠ると15歳以降に逆転される
- フィジカルが上がると、認知・理解・計画の判断の幅が広がる
- 3つの教訓:①長所に繋がる動作力強化/②自信のある環境を選ぶ/③ビッグマウスで逃げ道を断つ


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