2026/27明治安田J1リーグ第5節、FC町田ゼルビアは川崎フロンターレに2-1で逆転勝利しました。小川航基選手の2得点が大きく注目される試合ですが、今回は試合経過そのものよりも、町田がどのような配置で優位を作り、どこに戦術的な課題が残ったのかを中心に総評していきます。
前節から先発に入ったのは、菊池ダビド流帆選手、望月ヘンリー海輝選手、下田北斗選手、西村拓真選手の4人です。中3日の連戦で4人を入れ替えながらも、町田らしい強度と狙いを維持できるかが注目されました。黒田剛監督も試合後、「誰が出ても同じサッカー、同じ強度、同じクオリティー」を今年のチーム作りのベースにしていると説明しています。ローテーションは単なる疲労対策ではなく、チームの原則が選手個人に依存していないかを測る機会でもありました。
プレーモデルとは、チームが目指すプレーの基準を体系化した、選手と指導者の共通言語。「今日は攻撃的に行こう」とだけ言われても、選手はどこをどう攻めるのか分からず、各自が思い思いのプレーをしてしまう ── 基準が曖昧だからです。反対に基準が共有されていれば、選手が入れ替わっても同じ狙いが再現できる。黒田監督の言葉は、町田がプレーモデルで戦うチームだという宣言でもあります。
攻撃時に見えた「1-2-2-6」
攻撃時の町田は3-2-5や2-3-5を取ることが多いですが、チャンスと見ると前線に6枚を置く局面がありました。我々には2-2-6、GKまで含めれば1-2-2-6のように見えました。もちろん、これは90分間固定されたフォーメーションではなく、相手を押し込んだ特定の局面を切り取ったものです。前線の6人が横幅とペナルティーエリア内を分担することで、相手の最終ラインに対して同数または数的優位を作りやすくなります。一方、ボールより後方に残る人数は少なくなるため、失った瞬間のカウンター管理まで含めて成立させなければなりません。
そこで重要になるのが、この「1」であるスイーパーキーパーの役割です。谷晃生選手には、ハイラインの背後をカバーする守備範囲だけでなく、後方でパスを受けて攻撃をやり直す能力も求められます。GKが最終ラインの背後とビルドアップの両方に関われるからこそ、フィールドプレーヤーを前方へ送り込めます。谷選手は、単にシュートを止めるだけではなく、前線に人数をかけるための土台を担っていました。
GKは11人の1人であり、攻撃の起点であり、守備の最終砦。求める要素はビルドアップへの参加、背後のスペースのケア、攻撃の起点かつ守備の要の3つです。
5-2-3と5-4-1は「形」よりも連動が重要
守備時には、川崎が立ち位置を変えながらスペースを見つけ、パスをつなぐことに長けたチームであるため、町田は5-2-3と5-4-1を使い分けていました。5-2-3では前線3枚で中央への入口を消しながら外へ誘導し、押し込まれたときは両脇の選手が下がって5-4-1となり、ハーフスペースを埋めます。
ただし、形を作るだけでは守備は成立しません。前線がボールへ出た瞬間に中盤と最終ラインも押し上げること、逆に前線が追えないときは全体が下がることが必要です。この「出る・下がる」の判断がラインごとにずれると、選手間の距離が広がり、川崎のようにライン間を使うチームへ時間と前向きのプレーを与えてしまいます。今回も、守備ブロックの形は保たれていても、前線のプレスと後方の押し上げがそろわず、ラインが乱れる場面は確認できました。
即時奪回と帰陣は二者択一ではない
町田の特徴として、4つの局面の切り替えが非常に速く、特にボールを失った直後のネガティブトランジションでは即時奪回を強く狙います。この姿勢は町田の強みです。しかし気になったのは、即時奪回の最初の圧力を外された後も帰陣への切り替えが遅れ、後ろ向きに守る場面が生まれていたことです。
即時奪回を重視すること自体が問題なのではありません。重要なのは、最初のプレスが外された瞬間に「奪い切る守備」から「ゴール方向へ戻り、時間を稼ぐ守備」へ切り替えられるかです。相手が前向きでボールを持った、最初の守備ラインを越えるパスが入った、といった撤退の合図をチームで共有できれば、即時奪回と帰陣は両立できます。改善点は単純な走力や帰陣速度ではなく、即時奪回を続ける局面と撤退する局面の判断をそろえることです。
講義「カウンタープレス」の第4項は「プレスの終わらせ方」── 奪えない場合は素早く撤退し、守備ブロックを再形成する判断も大切。そして「ファーストディフェンダーが迷った時の撤退という決断」では、撤退を個人の逃げではなくチームの再構築と定義しました。本当に強いチームは、行く勇気と同時に引く勇気も持っている。「今は行かない、今は整える」という共通理解がなければ、前は行く・後ろは下がるという一番危険な中途半端な守備になります。
相馬勇紀選手の幅取りとピン留め
攻撃では、相馬勇紀選手がタッチライン際で幅を取り、クロスを供給する比重を高めていました。「カットインをしなかった」と言い切ることはできませんが、公式速報でも前半から相馬選手のクロスが複数記録されており、小川選手も試合後、前半から良いクロスが何本も上がっていたと振り返っています。
相馬選手が外側に立つことで、相手サイドバックは中央へ絞り切れなくなります。これがピン留めです。相手が相馬選手を警戒して外に残れば、サイドバックとセンターバックの間、いわゆるハーフスペースが広がります。反対に相手が内側を締めれば、相馬選手が前向きでクロスを上げられます。幅を取る目的は相馬選手自身がクロスを上げることだけではなく、相手の守備者を動けなくし、味方が使う内側の通路を作ることにもあります。75分の同点弾は相馬選手の右CKから小川選手がヘディングで決め、81分の決勝点は松尾佑介選手のパスから中村帆高選手が右を駆け上がり、DFとGKの間へ通したボールを小川選手が右足で仕留めました。得点経路は異なりますが、どちらも外側から質の高いボールを入れ、小川選手がゴール前の基準点になったという共通点があります。
菊池流帆選手が前へ出る意味
菊池選手が前へ出てゴールへ迫る姿は、闘莉王選手を思わせる迫力がありました。公式速報でも、7分と30分に菊池選手がペナルティーエリア内へ入った場面が記録されています。これは単なる勢いではなく、相手を押し込んだ際にセンターバックまで攻撃参加し、前線の人数を増やす町田の狙いとつながっています。ただし、センターバックが前へ出れば、その背後を誰が管理するかが重要です。残ったDF、ボランチ、そして谷選手が後方のバランスを整えられて初めて、この大胆な攻撃参加が武器になります。
失点場面に表れた「ポケット守備」の課題
59分の失点は、山本悠樹選手のパスを左で受けたマルシーニョ選手が内側を追い越した三浦颯太選手へつなぎ、三浦選手がペナルティーエリア内の左ポケットから折り返し、脇坂泰斗選手が右足で決めた形でした。「ポケットを攻略された」という見立ては妥当です。
ポケットへ進入されると、守備者は自陣ゴール方向へ向き直る場面が増え、ボールと中央へ入ってくる走者を同じ視野に収めにくくなります。対応のポイントは、ポケットへのパスそのものを制限すること、ウイングバックと外側のセンターバックが受け渡しを明確にすること、そしてクロスに対して中央の走者を捕まえることです。この失点では、三浦選手への対応だけでなく、最後に入ってきた脇坂選手を誰が見るのかという二列目への管理まで問われました。侵入した選手だけを追うのではなく、その次に起こるクロスと中央への走り込みまでセットで考える必要があります。
講義「ポケットとは一体何なのか」
ポケットはズレや受け渡しの曖昧さが生まれやすい場所。外に張る選手で相手を広げ、内側のスペースを狙う。守備側はサイドも中央も同時にカバーする必要があり、ひとたび侵入されるとマークの受け渡しが難しくなる。フリーで受けた選手はパス・シュート・ドリブル、何でもできる状態で、守備は完全に後手に回ります。「得点が生まれやすいシチュエーション」の記事でも、マイナスからの折り返しを4つの得点パターンの一つに挙げています。
松尾佑介選手が生んだ「時間」
66分から入った松尾佑介選手は、細かいタッチでボールを失わず、攻撃を前進させました。松尾選手の価値はドリブルだけではありません。相手の圧力を受けながらボールを保持することで、周囲の選手が前へ出る時間を作り、いったん速くなった攻撃を落ち着かせることができます。実際に投入直後の68分には小川選手へスルーパスを通し、81分の決勝点も松尾選手のパスが起点でした。ネガティブトランジションを強みにするチームほど、攻撃時に味方を押し上げる時間を作れる選手は重要です。ボールを失わないことが、攻撃だけでなく次の守備の準備にもなっていました。
パウサとはスペイン語で小休止。ボールを持った選手があえてプレーのスピードを緩め、意図的に「間」や「タメ」を作るプレーです。休んでいるのでも迷っているのでもなく、高度な状況判断の結果 ── 松尾選手の保持は、まさにこの間でした。
小川航基選手が「攻撃の基準点」になった
結局、この試合で最も光ったのは小川航基選手でした。60分に途中出場し、75分に同点弾、81分に決勝点を決めています。「2得点を決めた決勝点」ではなく、「同点弾と決勝点の2得点」という整理が正確です。ただし、小川選手の価値は2ゴールだけではありません。前線で相手センターバックを引きつけ、クロスの到達点を明確にすることで、町田の攻撃全体に基準が生まれました。長いボールを収められれば、後方の選手が押し上げる時間が生まれ、セカンドボールの回収や即時奪回にもつながります。黒田監督が評価した「入るポイント」の鋭さは、単なる決定力ではなく、ボールが来る前に相手と味方の位置を読み、最も危険な場所を取る能力です。
まとめ
今回は逆転勝利となりましたが、戦術的に見ると、黒田監督が相手の守備を外側から動かし、クロスとセットプレーで小川選手の強みを引き出した試合でした。相馬選手のピン留め、センターバックまで前へ出る攻撃参加、ネガティブトランジションでの即時奪回は、別々の現象ではありません。前線へ人数を送り、相手を押し込み、失った瞬間に奪い返すという一つの設計としてつながっています。
一方で、その設計は後方の人数を減らすため、即時奪回を外された後の撤退、守備ラインの連動、ポケットへの対応が不可欠です。町田の強みと課題は表裏一体です。小川選手の2得点だけで終わらせず、その得点を生み出した配置と、同時に生じたリスクまで見ることで、この試合の戦術的な価値がより深く理解できます。